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乗除算による間接測定

間接測定値を計算するために要求される演算が乗除算のときには, 加減算と同一の方針は不適切である。それはなぜかと言うと, たとえば測定値$ A$,$ B$にそれぞれ誤差$ \delta A$, $ \delta B$ の誤差が見込まれるとき, $ AB$に見込まれる誤差の大きさは

$\displaystyle (A+\delta A)(B+\delta B)-AB=A \delta B +B \delta A + \delta A \delta B
$

となり, $ \delta A$$ B$倍, $ \delta B$$ A$倍された形で 誤差に寄与するので, 単純に$ \delta A$$ \delta B$のうち大きい方を 取っても誤差を見積ることにはならないからである。

そこで, このような場合には, (19)の かわりに相対誤差の式(21)を使う。 加減算のときと同様に, (19)にあらわれる $ \displaystyle \frac{\delta x_1}{\vert x_1\vert}$, $ \ldots$, $ \displaystyle \frac{\delta x_n}{\vert x_n\vert}$, $ \displaystyle \frac{\delta y_1}{\vert y_1\vert}$, $ \ldots$, $ \displaystyle \frac{\delta y_m}{\vert y_m\vert}$ の中で値がもっとも大きいものどれか一つが 相対誤差全体を代表していると考える。 このような場合には, 相対誤差がもっとも大きい測定値と同じ桁数を使って (ただし左端の位取りのための零を除く)間接測定値を記録すれば, 相対誤差の見積りが1桁ずれてしまうような致命的な誤りはほぼ防げる。 なお, 表示桁を調整するときには, 加減算の場合と同様に, 必要に応じて計算値を四捨五入する。

乗算の例を見てみよう。先の測定値$ A$が1.341, 測定値$ B$が0.22と誤差を明示せずに記録されている例で, 間接測定によって $ E=A \times B$を求める問題を考える。 この場合, 測定値$ A$に含まれる相対誤差は $ 0.001/1.341\simeq 0.0007$, 測定値$ B$に含まれる相対誤差は $ 0.01/0.22 \simeq 0.05$となり, $ B$の方が相対誤差が大きい。 $ E=A \times B$の計算値は0.29502であるが, $ B$が記録された桁数から位取りのための零を除くと残る桁数は2桁だから, $ E$の方も位取りのための零を除くと2桁の数が残るよう 小数点以下第3桁目を四捨五入し, $ E=0.30$と書く。

除算の場合も同様である。上と同じ条件のもとで, 間接測定によって$ F=A/B$を求めることを考える。 この場合にも, 相対誤差が大きい$ B$に合わせて$ F$を記録する。 $ F=A/B$の計算値は $ 6.09\dot{5}\dot{4}$(循環小数)であるが, これは位取りのための零を含まない。 そこで, 記録値に2桁の数字が残るよう小数点以下第2桁目を四捨五入し, $ F=6.1$と書く。

加減乗除のそれぞれの場合の計算例を図2にまとめておく。

図 2: 間接測定値を記録するときの処理のまとめ
\includegraphics[scale=.5]{error-2.eps}



Shigeru HANBA
平成16年8月16日