next up previous
Next: 正規分布と中心極限定理 Up: 確率論の初歩 Previous: 標本平均, 標本分散, 不偏分散

標本平均の分散

この節では繰り返し測定によって偶然誤差の影響を減らすことについて検討する。

例として, はかりである物体の質量を$ n$回測って$ x_1$, ..., $ x_n$という $ n$種類の測定値を得た, という状況を考える。 ただし, このはかりには系統誤差がなく 測定値のばらつきはすべて偶然誤差によるものであると仮定する。 また, はかりには経年 変化がなく, $ i$回目の測定と$ j$回目の測定は確率的に独立で, 同一の確率分布にしたがう ものと仮定する。 このような場合, 測定値のばらつきの影響を小さくして この物体の質量のなるべく良い推定値を得るにはどうしたら良いだろうか? 先の仮定から, $ n$が十分大きいときには$ x_1$から$ x_n$は この物体の真の質量を中心として左右におおむね均等に散らばることが推察されるであろう。 すなわち, 標本平均 (29)は個々の$ x_i$と比べて, 真の質量のより良い推定値となるであろうことが期待される。

この期待は実際に正しい。 標本平均も確率変数であるから, 何回も試行を繰り返すと真の値のまわりでばらついた値を取るのだが, その分散が個々の試行と比べて小さくなるのである。 もう少し正確に述べると, $ n$回の試行が互いに独立で分散$ \sigma^2$を持つ 同一の確率分布にしたがうとき, 標本平均の分散は

$\displaystyle \frac{\sigma^2}{n}$ (32)

となることが証明される。 すなわち, 標本平均の 分散は$ n$が大きくなるにしたがって単調に減少する。 分散が小さいと いうことは値のばらつきが小さいということを意味するから, (32)によって平均を取ることが偶然誤差の影響を 低減する効果を持つことがわかる。



Shigeru HANBA
平成16年8月16日