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簡単な例題

例として, ばねに錘をぶら下げてばねの伸びた長さを測るという 実験を考えよう。 錘の質量を$ x$, 対応するばねの長さを$ y$とする。 フックの法則によれば,

$\displaystyle y= a x + b$ (34)

の関係があるはずである。 ここに, $ b$はばねの自然長であり, $ a$はばね係数である。 議論を簡単にするために, 錘の質量$ x$ に関しては誤差を含まない真の値がわかっているものとする。 これに対し, ばねの長さの測定値は, $ a x + b$を中心とする ある正規分布にしたがってばらつくものとする。 質量が $ x(1),\ldots, x(n)$$ n$種類の錘に対して 測定実験をおこない, 対応するばねの長さが $ y(1),\ldots,y(n)$となったとする。 このとき, どのようにして ばねの自然長$ b$とばね係数$ k$を推定するのが良いだろうか?

$ a$および$ b$の推定値を $ \widehat{a}$, $ \widehat{b}$とする。 $ \widehat{a}$, $ \widehat{b}$がどの程度良いかは, $ \widehat{a} x+\widehat{b}$$ y$にどの程度近いかで決まる。 だから, $ y$の推定値 $ \widehat{a} x+\widehat{b}$$ y$のずれの すべての測定値に関する合計

$\displaystyle L=\sum_{i=1}^{n} \left ( y(i)-\widehat{a} x(i) -\widehat{b} \right )^2$ (35)

をなるべく小さくするように $ \widehat{a}$ $ \widehat{b}$を 選ぶのがよいということは容易に想像がつくであろう。

(35)は $ \widehat{a}$および $ \widehat{b}$の2次関数であって, $ \widehat{a}$を適当な値で止めて $ \widehat{b} \rightarrow \pm \infty$とするか $ \widehat{b}$を適応な値で止めて $ \widehat{a} \rightarrow \pm \infty$とすると 無限大に発散する。 だから, (35)はその停留点, すなわち

$\displaystyle \frac{\partial L}{\partial \widehat{a}}=0$    
$\displaystyle \frac{\partial L}{\partial \widehat{b}}=0$ (36)

の解において最小値を取る。 よって, $ \widehat{a}$および $ \widehat{b}$の最も良い推定値は 連立方程式(36)の解である。

(36)を具体的に計算すると,

$\displaystyle \begin{pmatrix}\displaystyle \sum_{i=1}^n x_i^2& \displaystyle \s...
...displaystyle \sum_{i=1}^n x_iy_i \displaystyle \sum_{i=1}^n y_i \end{pmatrix}$ (37)

となる。 (37)を $ \widehat{a}$, $ \widehat{b}$について 解くことによって$ a$$ b$の推定値が得られる。

$ y$が正規分布にしたがっていて, $ y$$ i$回目の測定と $ j$回目の測定 $ (i \neq j)$が確率的に独立であるとき, 上記のようにして計算された $ \widehat{a}$および $ \widehat{b}$$ a$および$ b$の 最尤推定量となることが証明される。


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Shigeru HANBA
平成16年8月16日