電気電子システム工学実験II, 電気電子システム工学専門実験エンジニアリングデザイン講義資料

半塲 滋 (琉球大学工学部電気電子工学科)

この文書について

本文書は琉球大学工学部電気電子工学科の3年次を対象として開講されている 電気電子システム工学実験II(昼間主コース)および 電気電子システム工学実験専門実験(夜間主コース)の一部として実施されている エンジニアリングデザインに関する講義の資料である. 講義は3週にわたって実施され, 1回あたりの講義時間は180分である.

本文書の内容は, エンジニアリングデザインの基礎事項を概説したものである. 構成および内容の相当部分は文献[8]によるが, 他の文献も多数利用している. この文書自体にはオリジナリティはない.

本資料は, 特定の話題について深く掘り下げるのではなく, いろいろな話題について概要のみを述べ, エンジニアリングデザインの全体像について俯瞰するいう方針で作成されている.

他文献を引用する際には, 句読点を「. 」「, 」に統一し, 全角英数字等を半角に改める等の措置を取り, 明らかな誤字は修正している. なお, JIS規格を引用する際には注釈等を略すことがある.

講義では, 配付資料の枚数削減のため, 本文のフォントを8ポイントとし2段組で組版していたが(28ページ), 配付版では, 11ポイント, 1段組に変更した. また, 学生配付版に含まれる演習課題は削除した.

この文書はLaTeXからHTMLにlatex2htmlによって変換されたものである. 変換の不具合は気付いた範囲で修正したが, 万全ではない. 気になる方はpdf版をご参照頂きたい.


目次


エンジニアリングデザインとは

おおまかに言うと...[8]

エンジニアリングデザインとは, おおまかに言うと, 次のようなものである.

上記に出て来た用語の定義は次の通りである.

製品
製品とは, 工業製品, ソフトウェア, プラント, 管制システム等をさし, 必ずしもものづくりに限定されるわけではない.
ライフサイクル
製品のライフサイクルとは, 企画・情報集収, 設計, 試作, 製造, 販売, ユーザサポート, 廃棄 の全工程をさす. 最近の製品開発では, 設計段階で廃棄や再資源化の容易を含めて検討することが多い. なお, JIS Z8115[26]では, ライフサイクルは

アイテムの ``要求定義と概念'' の段階から ``廃却'' までの全段階並びに期間 と定義されている.

審査機関による定義[20,21]

ABET

Accreditation Board for Engineering and Technology (ABET)は USAにおいて教育プログラムの審査・認定をおこなう非政府団体である. ABETはエンジニアリングデザインを以下のように定義している.

JABEE

日本技術者教育認定機構(Japan Accreditation Board for Engineering Education; JABEE) は日本で技術者教育プログラムの審査・認定をおこなう非政府団体である. JABEEはエンジニアリングデザインを以下のように定義している.
エンジニアリング・デザインとは, 数学, 基礎科学, エンジニアリング・サイエン ス(数学と基礎科学の上に築かれた応用のための科学とテクノロジーの知識体系) および人文社会科学等の学習成果を集約し, 経済的, 環境的, 社会的, 倫理的, 健 康と安全, 製造可能性, 持続可能性などの現実的な条件の範囲内で, ニーズに合っ たシステム, エレメント(コンポーネント), 方法を開発する創造的で, たびたび 反復的で, オープンエンドなプロセスである.
JABEEによるエンジニアリングデザイン教育の審査基準は公開されており[21], 本講義もこれを念頭において設計されている. 以下にその審査基準を示す.
1.
デザイン能力に関して具体的な達成目標を設定しているか.
2.
学生にデザインあるいは問題解決策についての学習体験をさせているか.
3.
学生に以下のような能力が育成される複合的で解が複数存在する課題を提示しているか.
(1)
複数のアイデアを提案できる.
(2)
大学で学ぶ複数の知識を応用できる.
(3)
コミュニケーション力ならびにチームワーク力.
(4)
創造性(既存の原理や知識を組み合わせて, 新規の概念または物を創り出せる).
(5)
コスト等の制約条件や評価尺度を考慮できる.
(6)
自然や社会への影響(公衆の健康・安全, 文化, 経済, 環境, 倫理等)について考察できる.
4.
以下のような内容を含む達成度評価を実施しているか.
(1)
解決すべき課題の内容を良く考えている.
(2)
制約条件を考慮したデザイン(あるいは解決策)となっている.
(3)
デザイン(あるいは解決策)の結果を分かりやすく提示している.
(4)
その他, 当該プログラムのデザイン教育に関連する学習達成目標を満足している. (例えば, 構想力/構想したものを図, 文章, 式, プログラム等で表現する能力/計画的に実施する能力など)
(5)
上記(2)$ \sim$(4)についての裏付け資料があるか.

設計する(デザインする)とはどういことか[8,34]

「設計する」(デザインする)とはどういうことかについて, 文献[34]に記載されたいくつかの説明を列挙する. 細かい言葉使いは必ずしも本質的でないので, 上の中でわかりやすいものを「設計すること」であると考えればよい. 広義のエンジニアリングデザインは, 上記に加え, その上流の過程, すなわち および下流の過程, すなわち に関する検討を含む.

設計という行為は, 通常の学生実験(決まった手順によりデータを取得して分析する)とは大きく異なる要素を含む. 標語的に言うと, 次のようになる[8].

製品のライフサイクルにおける費用の大半は製造以降の工程で発生し, 製造以降の工程でどの程度の費用が発生するかは設計段階で決まる. また, 設計が進めば進むほど大規模な変更は費用の問題から困難になる. 設計の特に初期段階の費用は大きくないが, この時点における意思決定の良し悪しが後半で発生する費用に重大な影響を与える. うまくやれば少ない費用で大きな効果を上げることができるという意味で, 設計は製品のライフサイクルにおいて極めて重要である.

設計という行為は何らかの意味で「新しい」製品が必要な場合になされるのが普通であるが, その新しさは大きいものから小さなものまで多様であり, これを大雑把に分類すると次のようになる.

上記では, 上のものほど新規性が高い. Industrial Design では, 品質あるいは機能については新規性は問題にならない.

設計は多くは複数の工程から成り, 個々の工程では

(1)
要求品質等の情報から出発
(2)
設計実行
(3)
性能評価
(4)
要求品質が満たされれば次工程へ進む. そうでなければ (2)へ戻る.
というサイクルが実行される. このサイクルは, 品質管理等で使われるPDCAサイクル(Plan(計画), Do(実施), Check, Act(対処))とおおむね同じものである.

上で述べたように, 設計は複雑な行為であり, 設計段階で考慮すべきことは多様である. 以下に典型的なものを列挙する.

学生実験の実習では要求品質とコスト, 安全性を考えておけばおおむね十分であるが (長く使うわけではない), 工業製品ではそれ以外の要素も重要である.

エンジニアリングデザインの歴史

文献[52]によると, エンジニアリングデザインの体系的な研究が始まるのは19世紀以降である. 研究が活発になったのは20世紀以降であり, この主の手法の常として, 戦争が大きな契機になっている. アメリカ合衆国でエンジニアリングデザイン教育が流行したのは1980年代以降で, 文献[8]によると, 海外(日本のことであると思われる)の製造業に敗北したことが原因であるらしい.

今日ではアメリカ合衆国ではエンジニアリングデザイン教育は普通におこなわれている. 日本の大学では, 設計工学, 品質管理等の名目で開講されている講義がおおむねこれに相当するが, 必ずしもすべての工学系学科で開講されているわけではない. また, エンジニアリングデザインは設計工学や品質管理などを含む, より包括的な体系なのであるが, 日本ではエンジニアリングデザインが「ものづくり」のことであると誤解される傾向があり, 体系的な講義設計の例はあまり多くないようである.

この講義の目的

この講義の目的は次の通りである.

エンジニアリングデザインは大規模な製品(たとえばジェット旅客機)の設計に使われる方法論であり, 学生実験のエンジニアリングデザイン実習でそのまま使うには大がかりすぎるものが多いが, 考え方を知っておくことは重要なので, 概略ではあるがひと通りの講義をおこなう. 学生実験の実習でも, 利用できる部分は使うよう心がけてほしい. また, 大規模な製品を一人の技術者がすべてデザインするのは不可能であるので, エンジニアリングデザインは必然的にグループによる作業になる. グループによる作業の技法はエンジニアリングデザイン実習でも活用してほしい.

以下ではいろいろな方法論について解説するのであるが, そもそも万能の方法論などというものは存在しないし, 問題や資源, 人員構成などが変われば, 問題を解決するのに適した方法論も変わる. 方法論を盲信することがないよう注意してほしい. また, 上でも述べたが, 時間的制約のため各方法論の詳細には立ち入らないので, この資料のみの知識ではそれぞれの方法論を使いこなすには不十分である. 各方法論を本格的に使う必要が生じた場合は, 本資料の末尾の参考文献などを読んできちんと勉強してほしい.

エンジニアリングデザインの流れ[21]

本節ではエンジニアリングデザインの流れを概観する. 未定義の用語がかなり出てくるが, これらのうち必要なものについては後で説明する.
1)
企画
2)
Conceptual design
i)
問題の定義: 問題の定式化, ベンチマーク, 品質機能展開, 設計仕様の策定, プロジェクトの計画.
ii)
情報収集: インターネット, 特許, 図書館, 工業規格等を調べ, 情報を集める.
iii)
概念形成
iv)
概念の評価: 意志決定法を用いて適切なものを選択する.
3)
Embodiment design
i)
アーキテクチャの決定: 物理的な構成部品の配置等を決める.
ii)
Configuration design: 素材と製造過程の準備的な選定をおこなう.
iii)
パラメータ設計
4)
Detail design: 製図, 設計仕様を最終的に決定する.
以上が設計の工程である. 設計がうまくいった場合は, その結果が製造工程に渡されることになる.

この講義では, これ以降で上記各工程で用いられる手法について説明してゆくが, Conceptual design については実際に学生実験におけるエンジニアリングデザイン実習で使う機会があると思われるので詳しく説明し, Embodiment design 以降については大がかり過ぎてエンジニアリングデザイン実習で使う機会はないと思われることと, 個別の問題に特化した手法が多く一般性に欠けるため, 概略の説明にとどめる.

エンジニアリングデザインのプロセスでは, コンピュータが普及する以前は, 大量の文書が必要であった. また, テスト段階で多数の試作部品が必要となり, これがコストおよび開発の遅延をもたらしていた. コンピュータの普及により, 紙媒体での文書の相当部分が不要になった他, 部品のはめ合い(完成品では辻褄が合っているが組み立てられない, 組み立てた後でぶつかる, 可動部品が動かせる余地がない)等の 問題が3次元CADによってチェックできるようになり, 開発期間が短縮された他, 製造段階で重大なミスが発覚する等のトラブルも減少した.


製品設計と関連した経営戦略

製品を開発するときには, どのような事業形態で市場に参加するのか, その製品が市場においてどのような位置を占めることを意図するか, どのような方法で競合製品との差別化をするか, などといったことに関する分析が必要となる.

事業の分類[8,16]

事業の分類には, 「ポートフォリオ分析」と呼ばれる手法が使われる. これは, 横軸に相対市場シェア, 縦軸に市場成長率を取り, 横軸および縦軸をそれぞれ2分して, 事業を図[*]に示すような4種類に分類するものである.

図: ポートフォリオ分析
\includegraphics{portfolio.eps}
高い市場成長率, 高い相対シェアを持つ事業をスター (Star business), 低い市場成長率, 高い相対シェアを持つ事業を金のなる木(Cash-cow business), 高い市場成長率, 低い相対シェアを持つ事業を問題児(Wildcat business), 低い市場成長率, 低い相対シェアを持つ事業を負け犬(Dog business)と呼ぶ.

市場成長率が高いということは, 競争が激しく, 設備・流通に関して投資が必要であることから, 資金需要が大きいということを意味する. 一方, 相対シェアが高いと, 大規模生産によるコストダウンが可能で, かつふつうは生産が継続されると工程の改善等によって生産コストは逓減するから, 得られる資金が増大する.

Star business の市場が定常的になると Cash-cow business となり, 大きな収益をもたらす. 企業は, ここで得られた収益を次のStar business, あるいは Wildcat business にまわす. Wildcat business は資金需要が大きい割に収益が低く, この状態は持続できない. 成功すれば(Star business に転換できれば)大きな収益が見込める一方で, 失敗したら撤退を与儀なくされる, ハイリスクの事業である. Dog business は陳腐化した市場であり, 製品自体が市場から消えることもあるが, 成長はしないもののずっと売れ続けることもある. いずれにせよ, ふつうは市場の成長は見込めない.

競争戦略

経営戦略にはいろいろな種類があるが[59], 本節では, これらの中で, 製品コンセプトの決定との関連が深い競争戦略の代表的なものをいくつか紹介する.

ポーターの競争戦略[4,46]

ポーターの競争戦略の考え方によると, 企業が持続的に平均以上の業績を達成するための基本戦略は, 以下のいずれかに属する.

市場地位[16,46,56,57]

コトラーの市場地位別戦略の考え方によると, 企業の市場における地位は, の4種類に大別される. そして, 地位によってそれに適した市場戦略も異なる.

リーダー企業は, その分野においてトップシェアを持つ企業である. この企業の典型的戦略は, 単純なシェアの拡大のみではなく市場そのものの拡大を目指す, 市場の全領域を網羅する商品群を用意する, 高付加価値商品を提供する, 低コスト化によってシェアを維持あるいは拡大しようとする, というものである.

チャレンジャー企業は, その分野において2$ \sim$3位の企業である. この企業は, 差別化によってリーダ企業のシェアを奪い, 次のリーダーとなることを目指す. 価格引き下げ, 販売促進, サービスの品質向上などでリーダーに対抗することもある.

ニッチャー企業はニッチ市場(限られた消費者にしか利用されない特殊な製品, 特殊な地域のみに限定される製品などの市場)を占有する企業である. この企業の典型的戦略は, 差別化や顧客満足度の維持などによってその市場への参入障壁を高め, シェアを維持することである.

フォロワー企業は, 市場下位で, チャレンジャーでもニッチャーでもない企業である. この企業の典型的な戦略は, リーダ企業等を迅速に模倣し, かつ一定の差別化を試みる, というものである.

ブルー・オーシャン戦略[1,35,59]

ポーターの競争戦略とコトラーの市場地位別戦略は経営戦略の代表格なのであるが, これらとまったく異なる経営戦略として一時期過剰に宣伝されたものに, ブルー・オーシャン戦略というものがある. 筆者には, ブルー・オーシャン戦略とは既存の手法論のいくつかをまとめて大仰な名前を付け直しただけのもにも見えるのだが, どの程度のものであるかを知っておくことは有用であると思われるので, 簡単に紹介する.

ブルー・オーシャン戦略では, ポーターに代表される競争戦略を総称して レッド・オーシャン戦略と呼ぶ. 他社との競争によって血に染まる海, というイメージであるらしい[35]. そして, 新市場の創造によって競争のない世界を目指そう, というのがブルー・オーシャン戦略のスローガンである.

まず, ブルー・オーシャン戦略で用いられるツールについて説明する.

ツールの第一は, 提唱者が「戦略キャンバス」と呼ぶ図である;. ブルー・オーシャン戦略では, これに基づいて既存製品の分析や新製品の企画などをおこなう. 戦略キャンパスは, 図の横方向に市場における競合製品の競争要因を書き, 縦方向にその競争要因に関する(買い手への)メリット(あるいはデメリット)を数値化してプロットする. 次に, プロットされた点のあいだを折れ線で結ぶ. この折れ線のことを価値曲線と呼ぶ. 価値曲線は製品の特徴を視覚化したものである.

[*]は, 戦略キャンバスがどのようなものであるかを理解してもらうために, 戦略キャンバス型の図によって 2種類のノートPC(Sony VAIO Type Zと ASUS EEE PC 1015PD, Panasonice CF-J10)の比較を試みた例である 比較結果の一部について説明しておく. たとえば, 振動への耐性は記憶装置にハードディスクを採用するかSSDを採用するかの 相異から発生しており, SSDを採用(Sony VAIO Type A)すると振動耐性は高まるが価格も上がる.

図: 戦略キャンバスの例: ノートパソコンの性能比較
\includegraphics{stragegy_canvas.eps}

第2のツールは, 4つのアクションと呼ばれる手法である. 4つのアクションとは,

というアクションのことである.

第3のツールは, アクション・マトリックスと呼ばれる表である. これは, 4つのアクションで挙げられた各事項に具体的な項目をあてはめていった表である.

表: アクション・マトリックス
取り除く 増やす
  • ............
  • ............
(取り除く要素を列挙する)
  • ............
  • ............
(増やす要素を列挙する)
減らす 付け加える
  • ............
  • ............
(減らす要素を列挙する)
  • ............
  • ............
(付け加える要素を列挙する)

ブルー・オーシャン戦略は差別化要因の作り方を体系化したものと見ることができる. この戦略は, 韓国の Samsung によって採用されている. Samsung は近年飛躍的に成長した企業であるが, 一方でスマートフォンの分野において Samsung が Apple Computer の設計の剽窃をおこなったという指摘がなされ, 世界各地で訴訟に進展している.

製品・設計のサイクルと組織

製品のライフサイクル, 費用, 収益[8]

費用から見ると, 製品のライフサイクルは図[*]のようになる. 開発段階では収益はマイナスで, 開発が進むほど費用がかさむ. 市場投入後の販売量は, 図[*]上の点線のような曲線にしたがって推移することが多い. 製造コストは, 市場投入後はだんだん低下してゆくことが普通である.

販売に伴う収益の積分値から販売までのコストの積分値を減じたものが利益になる, 利益零のポイントを超えることなく販売が終息した製品を継続して出してしまった企業は事業を継続することができない. 開発期間をなるべく短かくすることで開発コストを下げ, かつ製品の適切な時点での市場投入により販売終息までの期間を長く確保することが収益をあげるために本質的に重要である.

図: 費用から見た製品のライフサイクル
\includegraphics{cost.eps}


組織の分類[8,18]

設計はふつう個人ではなく組織においておこなわれるものなので, 組織がどのような形態を取っているか, ということも問題となる. 代表的な組織の形態は次のようなものである. 定常的な事業には機能型および部署への帰属の方が強いマトリックス型が適しており, 動きが速い事業にはプロジェクト型およびプロジェクトへの帰属が強いマトリックス型が適している.

日本では, SI産業を中心に, 1990年代後半から, 組織全体をプロジェクト型の組織マネジメントで管理しようという動きがおこったが, 文献[18]では, このような動きには,

といった弊害があることが指摘されている.

コンカレントエンジニアリング[8,19,45]

複雑な製品の設計はふつうは極めて多くのステップから成るが, 伝統的な設計は, 各ステップを最初から順に遂行してゆくというものだった. しかし近年製品のライフサイクルが短くなるに伴い, このような設計手法では適切なタイミングで市場に製品を投入するのが困難になってきた. これに加えて, 開発後期におけるトラブルの影響が極めて大きいという問題もあった. これらの問題を解消するために考えられたのが, コンカレントエンジニアリングという手法である.

コンカレントエンジニアリングとは, 上記のような設計の多くのステップを並列化することをいう. これがうまくいくためには, 並列化したチームが緊密な連携を取る必要がある. 並列化の利点は第一には開発期間の短縮であるが, これに加えて, 問題が早期に発見されるため, 設計の質が向上するという効果も見込まれる. 一方, 設計の「下流」の工程を担当するチームは, 前半の「上流」については「こうなる見込みである」という情報に基づいて作業をおこなわなければならないため, 開発の不確実性が増すという問題がある[45].


イノベーション[10,38]

英単語としてのinnovationは「革新」という意味であるが, 経営の分野での定義はもう少し狭義であり, 典型的には次のように定義される.

イノベーションは経済成長の原動力のひとつである. また, 日常生活のあり方や企業の競争力, 国際関係などをを激変させることもある. 近年の例では, レアアースに対する代替技術の開発やシェールガスなどが挙げられる.

一般に, イノベーションは, シーズから出発し, 1)研究・開発, 2)製品開発, 3)事業化 の3段階を経て, 成功した場合は成果獲得に至る. シーズには, 大別すると, テクノロジー・プッシュ(技術の進歩が出発点)とディマンド・プル(需要が出発点)の2種類がある.

イノベーションは持続的な成長のためには不可欠なのであるが, これを実行する過程には種々の困難が伴う. まず, 有用技術を開発すること自体が困難なことに加え, これを適切に評価することも(前例がないのだから)容易ではない. 次に, 新製品を開発すること自体が困難なことに加え, 新製品と顧客ニーズの整合性を取ることも容易ではない. さらに, 仮に事業化に成功したとしても, 新製品が市場投入時には価格性能比で従来製品に及ばないこともあり, 市場で競争を勝ち抜くことは容易ではない.

文献[10]では, イノベーションの機会として,

  1. 予期せぬ成功と失敗を利用する,
  2. ギャップ(予想された事態と実体の乖離)を探す,
  3. ニーズを見付ける,
  4. 産業構造の変化を知る,
  5. 人口構造の変化に着目する,
  6. 認識の変化をとらえる,
  7. 新しい知識を活用する,
という7項目を挙げている. そして, イノベーションの際になすべきことは,
  1. 機会を分析する,
  2. 理論的に分析するだけでなく, 顧客・利用者の期待, 価値, ニーズを知覚する,
  3. 焦点を絞り単純化する,
  4. 小さくスタートする,
  5. トップを狙う,
であり, 逆にやってはならないことは
  1. 凝りすぎること(普通の人が使うことを想定しなければならない),
  2. 多角化しすぎること,
  3. 現在ではなく未来のためにおこなうこと
であると述べている. また, イノベーションが成功するための条件として,
  1. 集中,
  2. 強みを基盤とすること,
  3. 経済や社会を変えること
を挙げている.

グループ作業の技法[8]

文献[8]では, Working Group と Team を下記の表[*]のように区別し, 表[*]で述べるところのチームとして振舞えるようになることを推奨している.

表: Working Group と Teamの比較(文献[8]より, 一部略)
Working Group Team
強力で明確な目的を持ったリーダがいる 個々のメンバーが相互に責任を持つ
グループの目的がより大きい組織の目的と同じ チームに固有のが自分たちで考えた目的がある
作業はメンバーが個々におこなう 共同作業をする
会議は効率優先 フリーディスカッションや活発な問題解決のための会議をおこなう
議論し, 決定し, 個別の作業は各自に委ねる 議論し, 決定し, 共同作業する

「チーム」という言葉は学生実験に使う日本語としてはこなれていないので, 以下では用いないが, 学生実験におけるエンジニアリングデザイン実習では, チームとしての行動を学ぶことが期待されている ことは覚えておいてほしい.

リーダ

一般に, グループ作業には, リーダが必要である. プロジェクト型の作業においてリーダの選定がメンバーに任されている場合 (本講義の実習部分もこれに該当する), どのようにしてリーダを決めるかが問題となる.

このための手法のひとつに, 最初の数回は回り持ちでミーティングの取り纏め人を決め, 1巡したあたりで最もうまくやった人をリーダに指命するという方法がある.

[*]に文献[8]に挙げられているリーダ像の分類を示す. どのようなリーダが適しているかはグループの構成によるが, 文献[8]ではFacilitativeなリーダが現代的であると述べている.


表: リーダの分類
伝統的リーダ 受動的リーダ Facilitativeリーダ
命令し, 仕切る 放置 自由な雰囲気を作ろうとする
質問を認めず, 盲従を要求する 放置 メンバーからの提案を推奨する
決定権をすべて保持する 何も誘導・指示しない ガイダンスをする
メンバーを信頼しない メンバーの権限が強すぎる 創造性を推奨する
メンバーの意見を無視 メンバーの意思決定には関与しない 提案された全アイデアを検討する
権威的 御輿に乗っているだけ 要点は押さえ, 目的や条件の重み付けをする

個々の構成員が心掛けるべきこと

グループで長期にわたるプロジェクト型の課題を達成する際, よいグループをつくるには, 等が必要である.

会議の技法

以下に会議の技法を述べる. 学生実験におけるエンジニアリングデザイン実習のためのガイドラインとしては過剰であるが, 実務では重要なことなので, 詳しく述べる. あたりまえのことばかり書かれているように思うかもしれないが, 実際にやってみると, 案外守れないものである.


問題発見・解決の方法[8,43,45]

問題発見の方法

問題発見のための手軽な方法は, ブレーンストーミングでアイデアを出し, 親和図あるいはKJ法により類似したアイデアをまとめ, 特性要因図で根本的な問題を見出すというものである. これ以外に, パレート図, Why-why diagram, 連関図というものもある. これらの概念についてこれから説明する.

アイデアを出す方法にはブレインストーミング以外にも色々なものがあるが, それらについては次回に紹介する.

ブレーンストーミング

ブレーンストーミングとは, 自由な雰囲気で議論することにより, 思い付く限りのアイデアを出す方法である. 出たアイデアはすべて記録しておく.

ブレーンストーミングの途中では, 以下の事項に注意する.

ブレーンストーミングの亜種に, ブレーンライティングという手法がある[43]. これは, 参加者にアイデアをカード等に書いたものを提出させ, それに基づいて議論する, というものである. 一旦集めたカードは変更しないスタイルと, 他人のカードに自分のアイデアを順次書き加えてゆく, というスタイルのものがある. ブレーンストーミングにおいて, 一人だけ喋る人がいて議論にならない, アイデアが口に出しにくい話題なので誰も発言しない, 等の問題が発生したときには有効なことがある.

親和図

ブレーンストーミングなどの手法によって出たアイデア群は玉石混淆であって, 未整理のままでは使いにくい. これを整理するために使われる手法のひとつが, 親和図法である.

親和図とは, 言葉で表現されたアイデア群を階層性および類似性にしたがってまとめたものである. 親和図の例を見てみよう.

以下は, amazon.co.jpにおいて ノートパソコン ACER AS3820-A52C に対するカスタマーレビューに挙がった項目を列挙したものである (この機種は, 2011年10月20日の時点で, Windowsノートパソコンの中でもっとも「おすすめ度」が高かった機種である).

親和図を作る際, まとめの項目を作るやり方は何通りもあるが, たとえば以下のようなものが考えられる.
CPU関連
高速起動
速い
メモリ増設が必要
モバイル性
やや重い
電池の持ちが良い
電池の持ちは普通
ユーザビリティ
画面が大きくて見やすい
説明書が不親切
キーボードが打ちやすい
価格
性能のわりに安い
ハードウェアの不具合
耐久性が心配
SDカードスロットが浅すぎる
ACアダプタ挿入口が固い
キーボードの隙間が大きい
リカバリ先が選べない
拡張性
光学ドライブが別途必要
WiMAXと無線LANが共存できない
Bluetoothもほしい
外部インターフェースが充実している
振動・騒音・発熱
発熱が激しい
性能の割には低発熱
ファンが静か
HDDの振動が大きい
その他
初期設定だと音が悪い
音がよい
見た目がよい

上の例でもわかる通り, アイデア群の出所がブレーンストーミングである必然性はなく, 市場調査や顧客からの苦情などでもよい.

上記の親和図は階層構造を持たない単純なものであるが, 目的次第では, 複雑な階層構造を持つ親和図を作成することもある.

KJ法

KJ法は「類似性に基づいてアイデアをまとめる」という手法で, 親和図法と似ているが, 個々のアイデアをカードに書き, そのカードを分類することでアイデアを整理する, という点が親和図法と異なる. カードを利用するのは, 文化人類学においてフィールドワークで集めたデータを整理する方法として開発された, という歴史的経緯の産物である.

特性要因図

特性要因図はイシカワダイアラム(提案者(石川馨)の名前), Fish-bone diagramとも呼ばれる. これは, 分析したい問題の要因を図を作成して調べる手法のひとつであり, JIS Z8101-2の定義は次の通りである[25].

特性要因図を作成するときには, まず図の中央に右向きの矢印, その先に分析したい問題を記述し, その上下に問題の原因を斜めの矢印で書き込んでゆく. 原因のより細かい原因への分解は, 何段にもわたって継続される. 図[*]は文献[45]で挙げられた金めっきの 品質不良の特性要因図の一部である. 上の説明だけではよくわからないと思うので図[*]を参照してほしい.

図: 金めっきの品質不良の特性要因図(文献[45])の一部
\includegraphics{gold.eps}

パレート図

まず JIS Z8101-2 にしたがってパレート図の定義を述べる[25].

品質管理等の分野では, 「重要度が高いものを見付けてそこから対策をしてゆく」 といった使い方がなされる.

[*]に例を示す. これは, 2010年11月4日に筆者がgoogleで 沖縄の麺類に関する検索をおこない(「沖縄 ラーメン」などのように), ヒット件数に関するパレート図を作成したものである.

図: パレート図
\includegraphics{pareto.eps}

連関図

JIS Q9024では, 連関図は, 複雑な原因の絡み合う問題について, その因果関係を論理的につないだ図であると 定義されている[24].

連関図作成の手順は次の通りである.

  1. 問題を設定し, 用紙等の中央に記載する.
  2. 問題の原因(1次原因)をリストアップし, 問題の周辺に配置して, 問題と矢印で結ぶ.
  3. 1次原因の原因(2次原因)をリストアップし, 1次原因の周辺に配置して, 因果関係を矢印で結ぶ.
  4. 以下, それ以上要因が出なくなるまで同様の手順を繰り返す.
  5. 因果関係を確認する.

[*]に連関図の例を示す.

図: 連関図
\includegraphics{ird.eps}

Why-why diagram

Why-why diagram は, 障害等の原因として考えられる事項(複数)は何か, その原因は何か, さらにその原因は何か, というふうに, 因果関係を辿ってゆき, それを右に広がったあみだくじのような図で表現したものである.

Why-why diagram作成の手順は次の通りである.

完成した図は, 図[*]のような形になる.

図: Why-why diagram
\includegraphics{why.eps}

問題解決の方法

問題発見の節で述べた方法は, why-why diagram 以外はそのまま使えるので, 繰り返し述べることはしない. これ以外に, how-how diagram と呼ばれる方法があるので, これについて簡単に紹介する.

How-how diagram

How-how diagram は, 問題解決の手段(複数)は何か, その各々を熟考するための手段は何か, さらにそのための手段は何か, というふうに, 必要な手段をより細かい手段に展開してゆき, それを右に広がったあみだくじのような図で表現したものである. Why-why diagramの`why'が`'how'に置き換わっただけで, 基本的な考え方は同一である.

How-how diagram作成の手順は次の通りである.

完成した図は, 図[*]のような形になる.

図: How-how diagram
\includegraphics{how.eps}

本節で述べた問題発見・解決の方法は思い付きに頼る部分が多い, いわば「場当たり的」な要素を含むものである. より体系的な設計の手法については第[*]節で述べる.

プロジェクト[7,15,23]

プロジェクトとは, 独自のプロダクト, サービス, 所産を 創造するために実施される有期的な業務のことをいう[15]. 第[*]節でも述べたが, 組織が有限時間で消滅することがプロジェクトの特徴である.

JIS Q9000では, プロジェクト関連用語は次のように定義されている[23].

(3.4.3) プロジェクト(project): 開始日および終了日をもち, 調整され, 管理された一連の活動からなり, 時間, コスト及び資源の制約を含む特定の要求事項(3.1.2)に適合する目標を達成するために実施される 特有のプロセス(3.4.1).

(3.1.2) 要求事項(requirement): 明示されている, 通常, 暗黙のうちに了解されている若しくは 義務として要求されている, ニーズ又は期待.

(3.4.1) プロセス(process): インプットをアウトプットに変換する, 相互に関連する又は相互に作用する一連の活動.

プロジェクトは成功することも失敗することもあるが, その成否は, プロジェクトに課せられた制約条件のバランスを取りつつ 決められたプロジェクトの目標を達成することができたか否かによって定まる. 制約条件として必ず課せられるのは, 以下の3項目である.

プロジェクトを成功させるためには適切な管理運営が必要なのであるが, この活動をプロジェクトマネジメントという. また, プロジェクトマネジメントに責任を持つ者をプロジェクト・マネージャーという.

文献[7]では, プロジェクトのライフサイクルは,

の4フェーズに分類されている. 各フェーズでやるべきことは以下の通りである.

定義フェーズでは, 以下の作業をおこなう.

計画フェーズでは, 以下の作業をおこなう.

実行フェーズでは, 作業を遂行するとともに, スケジュール・コスト・品質を監視する. スコープを変更することもあり得る.

終結フェーズでは, 教訓を収集し, 管理作業を終え, プロジェクトを公式に終える.

スケジュール管理[8]

筆者の研究室では, 例年, 卒業研究において, 卒業研究の作業計画を立てさせ, それにしたがって作業を進めさせているのだが, 今までのところ, うまく機能した例は稀である. この理由は, ということのようである. 現実的な問題として, 期日が迫ると学生の能力が増大するということはありえないし(焦りにより低下することはある), 「頑張る」とはいっても時間の限界があり, 無理に睡眠時間を削ればさらに能力は低下する. 卒業研究では多少の不出来が重大な問題となることはないが, 就職後に企業のプロジェクトに参加する場合, 工程の遅れや無理な作業による品質の低下は, 企業に重大な損害を与える.

以下では, プロジェクトにおけるスケジュール管理に使われる手法について簡単に述べる.

ガント表

スケジュール管理によく使われるのが, ガント表と呼ばれる表である. 表[*]にガント表の例を示す. 表を作成する時点では, まず作業を小さい工程に分割して表の左に実行する順番にしたがって 並べ, 表の上に日付を書き, 各工程に要する期間を算出し, 各作業の作業期間を灰色で塗り潰してゆく. 複数の工程が並列に走ることもある. 作業開始以降は, 毎日, 現在の日時のところに縦の点線を引き, 終了した作業は黒で塗り潰す. 点線と見比べると, どの工程が遅れていて, どの工程が進んでいるかが, 見ただけでわかるようになっている.


表: ガント表
\begin{table}\begin{center}
x
\includegraphics{gantt.ps}
\end{center}\end{table}


クリティカルパス法

クリティカルパス法とは, 作業全体が複数の工程から成るネットワーク図(図[*])で表現されているとき, この図を分析して, もっとも時間を要する「経路」を見付ける方法である. 各工程(一定の時間を要する作業)を activity , 工程がひと区切りついた時点を event と呼び, activity を矢印, event を点であらわす. なお, event間に依存関係はあるものの所要時間はかからない場合があり, この場合は event 間に破線を引く (これを dummay activity と呼ぶ). 図[*]では, 2番と5番のあいだに破線が引かれている. 各 activity には記号と, 所要時間(Duration,D)の見積りを書き込んでゆく. 単位は問題によりいろいろであるが, ひとつの図中で複数の単位を 用いてはならない. ここでは仮に日としておく. 図[*]では, Aが4日, Bが3日, Cが5日, ...となっている.
図: ネットワーク図
\includegraphics{cp.eps}
さらに, 次の用語を定義する. 上記により, TF零の activity は critical path 上にある, ということになる.

[*]のクリティカルパスを分析してみよう. まず全 activity の ES を図から求めると, 表[*]の第2列のようになる. ここから, 全工程の日数は, 工程$ G$のESとDを加算することで得られる17日であることがわかる. 次に, ここからLSを求めると, 表[*]の第3列のようになる. TFは 第2列と第3列から計算できる. 計算の結果, A,D,G の3 activity が critical path に 乗っていることがわかる.

表:[*]のクリティカルパスを見付ける手順
Activity D ES LS TF
A 4 0 0 0
B 3 0 5 5
C 5 0 6 6
D 7 4 4 0
E 3 3 8 5
F 2 5 11 6
G 6 11 11 0
H 4 7 13 6

工程分析の結果期日までにプロジェクトが完成しないことが判明した場合, critical path 上の activity により多くの人員を投入する等の方法により, プロジェクトに要する期間を短縮する必要がある. ただし, 変更の結果 critical path も変わるので, critical path の分析をやり直す必要がある. Activity の期間短縮に要する費用と短縮できる時間の関係がわかっている場合には, 線形計画法などの最適化手法を用いることにより, 最小の費用で期日までにプロジェクトを完成させる計画を立てる, という方法がある[37].


マーケティング[2,16,46,56]

マーケティングとは大雑把に言うと市場環境の分析のことであるが, アメリカ・マーケティング協会による定義は極めて包括的で, 次のようになっている[56].
マーケティングとは, 組織とその利害関係者の利益となるように, 顧客にとっての価値の創造・伝達・流通をおこない, そして顧客との関係を管理するための組織的な機能や一連の過程である.
マーケティングに関する管理のことをマーケティング・マネジメントという.

マーケティング論において捉えられている市場には, 次のような特徴がある.

マーケティングの目標は第一に顧客満足, 第二に利益であるが, 市場の選択には利益が重視され, 標的市場に対するマーケティング・マネジメントでは顧客満足が重視される.

マーケティングの代表的な手法のひとつに, STPアプローチと呼ばれるものがある. これは, 市場を細分化した上で標的市場を設定し(市場全体をターゲットすることもある), 標的市場において製品の望ましいポジショニングが達成されるように計画を立案する, という手法である. SはSegmentation(市場細分化), TはTargeting(標的設定), PはPositioning(ポジショニング)の略である. 具体的な方針の策定には, 第[*]で述べたポートフォリオ分析, ポーターの競争戦略, コトラーの市場地位別戦略などが用いられる.

マーケティング目標を達成するためには企業は制御可能なマーケティングの要素を適切に組み合わせる必要があるが, この制御可能な要素を 製品(Product), 価格(Price), 流通(Place), プロモーション(Promotion)の4要素に分類することがある. これらを, その頭文字を取って4Pと呼ぶ. これらを適切な組み合わせることをマーケティング・ミックスという.

的確なマーケティングをおこなうためには, 消費者のニーズや行動に関する十分な知見が必要である. 市場およびマーケティングに関する情報を収集し, 分析し, 意思決定を支援する情報を提供する一連の過程を マーケティング・リサーチという[16]. マーケティング・リサーチは以下に述べる過程から成る.

  1. 問題の設定: まず大きな意思決定問題を設定し, その大問題を構成する複数のリサーチ問題を設定する.
  2. リサーチ・デザインの決定: 探索的リサーチ(アイデアや洞察を発見するためのリサーチ), 記述的リサーチ(頻度や2変数間の関係を明らかにするためのリサーチ), 因果関係リサーチ(因果関係を明らかにするためのリサーチ)のいずれをおこなうかを決める.
  3. データ収集方法・形式のデザイン: 質問票を用いる質問法と, 観察票を用いる観察法がある. また, 実験を伴う場合と伴わない場合がある. 質問法では, 質問票を管理する方法に, 人が介在する方法(調査員など), 郵送, 電話, インターネットといった方法がある. 観察法では, 人が観察する場合と機械的に観察する場合がある. 質問の設定にはさまざまな形式がある.
  4. 標本デザインとデータ収集: 母集団を決定して標本を抽出する.
  5. データ分析と解釈
  6. 調査報告書の作成
消費者行動や意思決定に関するモデルが作成されることもある.

マーケティングで取り扱われる問題は多岐にわたるが, 以上はそのごく一部を表面的に取り上げただけである. より深く知りたい者はマーケティングに関する文献([2,5,16,46,50,57]など)を参照せよ.

品質


品質の分類[3,8,41,23]

これまで品質という言葉を未定義で使ってきたのだが, ここで正式な定義を述べておく.

JIS Q9000では, 品質およびそれに関連する概念は, 次のようになっている(引用にあたり番号や注記を略した)[23].

品質 (quality)
本来備わっている特性の集まりが,要求事項を満たす程度.
要求事項 (requirement)
明示されている,通常,暗黙のうちに了解されている若しくは義務として要求されている,ニーズ又は期待.
特性 (characteristic)
そのものを識別するための性質.

品質を製品のライフサイクルの時系列にしたがって分類すると,

となる[3,8]. 設計品質は技術者が要求品質を(企画品質を経て)技術情報に変換したものであると考えることができる. 製品品質は, 設計品質と製造プロセスの能力から決まる. ふつうは製品品質が設計品質を超えることはない.

一方, 品質は, 以下の8次元空間における量であると考えることもできる[8,44].

品質を「顧客がどう反応するか」という観点から以下の4種類に分類することもある.

上記と関連した考え方であるが, Kano diagram という図を用いた分析がおこなわれることもある. Kano diagram とは, 図[*]のように, 横軸にその性質の実装の度合い(製品にどの程度取り入れるか), 縦軸に顧客満足度を取ったグラフである. 横軸の原点には特に意味はない. 図の(II)であらわされた直線は, 性能と顧客満足度が比例するような性質に対応する. (I)であらわされた曲線は上記 Exciters に対応し, これがなくても製品は成立するが, あれば顧客満足度は跳ね上がる. (III)は曲線(I)を直線(II)に関して 折り返したものであり, この性質によって顧客が満足することはないが, ないと強烈な不満を抱くようなものである. (IV)はあってもなくても顧客が気にしない性質である.

図: Kano diagram
\includegraphics{kano}

さらに, 品質を

のように分類する考え方もある[41].

ユーザビリティ[40]

ユーザビリティとは, 大まかに言うと, 製品の使いやすさのことである. これは品質の一部だと考えられるが, 機能とは必ずしも関係はない. ユーザビリティを無視した製品は高品質でも市場に受け入れられないことがあるので, 設計の際にはユーザビリティに十分配慮する必要がある.

JIS Z8530からユーザビリティ関連の用語を引用しておく[27].

ユーザビリティを高めるための設計には, ユーザが(ユーザビリティの観点から)製品に対してどう反応するかということに関する知見が必要である. これを得るための手順は, ユーザ分析とユーザビリティ評価に大別される. ユーザ分析のためには, 第[*]節で述べたマーケティング・リサーチと類似した手法が用いられる. ユーザ行動に関するモデルが作成されることがあるのも, マーケティングで消費者行動のモデルが作成されることがあるのと同様である. ユーザビリティ評価はユーザビリティのテストとその評価から構成され, テストには プロトコル分析法(ユーザが製品を使用する様子を録画する; 使用中にユーザが思い付いたことをリアルタイムで発声して報告してもらうこともある), ログテータ分析法(テストユーザの操作内容, 待ち時間などを自動的に記録する), 質問紙調査法, インタビュー法, コグニティブ・ダイアリー法(ユーザが日記形式の記録紙に使用記録を付ける), 心理学実験などがある. テストの結果を分析することによりユーザビリティが評価される. これらの詳細に興味がある者は文献[40]を参照せよ.

ユニバーサルデザイン[51]

ユニバーサルデザインとは, できる限り最大限すべての人に利用可能であるように 製品, 建物, 空間をデザインすることであり, 近年, 高齢者や障害者への対応との関係で重視されるようになってきている. ユニバーサルデザインの原則は, 以下の通りである.
  1. 誰でも公平に使用できること.
  2. 使う上での自由度が高いこと.
  3. 簡単で直感的にわかる使用方法になっていること.
  4. 必要な情報がすぐ利用できること.
  5. うっかりエラーや危険につながらないデザインであること.
  6. 無理な姿勢や強い力なしで楽に使用できること.
  7. 接近して使えるような寸法, 空間となっていること.
なお, 近年よく見られるバリアフリーに基づくデザインは, 高齢者や障害者のためのデザインであり, ふつうの人にとっての使いやすさが犠牲になることもあるという点において, 万人向けのデザインを指向するユニバーサルデザインとは考え方が異なる.

ヒューマン・マシン・インターフェース[51]

人と機械が接する部分をヒューマン・マシン・インターフェースと呼ぶ. ヒューマン・マシン・インターフェースの良し悪しは使いやすさや安全性に大きく影響する. 人間の感覚, 運動能力の特徴や限界を踏まえたインターフェース・デザインの原則を人間工学的設計原則と呼ぶ. これは, 表示系, 操作器具, コントロールパネルに対するものに大別される.

表示系設計の基本原則は,

である.

操作器具設計の基本原則は,

である.

コントロールパネル設計の基本原則は,

である.

アイデアを出すための技法

アイデアを出すための典型的な手法は第[*]節で述べたブレーンストーミングであるが, ここではそれ以外のものをいくつか紹介する.

6個の質問[8]

6個の質問とは, 5W1H型の発想法であり, 以下の事項について考えてゆく, というものである.
  1. Who: 誰がそれを使い, 欲しがり, それで得をするか.
  2. What: それによって何がおこるか, 成功した場合と失敗した場合にどうなるか.
  3. When: 速度を速くしたり遅くしたりすることができるか, 速いのと遅いのとどちらが良いか.
  4. Where: どこでそれが起こるか, 他の場所で起こることがあるか.
  5. Why: なぜそれをするのか, その意味は何か.
  6. How: どのようにしてそれをするのか.

チェックリスト[8]

事前に用意されたチェックリストを順に調べてゆくことがアイデアを出す手掛かりになることがある. 第[*]節で述べるTRIZはチェックリストを含む.

ランダム入力法[8]

ランダム入力法とは, たとえば辞書をでたらめにめくって目についた単語から連想をはたらかせる, といった方法である. 入力源としてランダムにアクセスしたWWWサイトを利用 するという手法もある[43].

シネクティクス[34]

シネクティクスとは, 以下のような手法による発想法の総称である.
  1. 擬人的類比, 感情移入: 「もし私がねじだったら」などといった空想による発想法.
  2. 直接的類比: 既に存在しているものをまねること, ある種のベンチマーキング.
  3. 象徴的類比: 解くべき問題を記号演算に置き換えてみる.
  4. 空想的類比: 願望を明示的に話す, あるいは書き表すことを発想の端緒とする方法.
  5. 反転: 逆の立場から見ること.
類似した手法であるが, 問題を別の分野の問題に喩えて発想する メタフォリカルシンキングという手法がある[43].

アイデアの絞り込み[5,50]

前回にも述べた通り, アイデア発想法で得られた結果は玉石混淆であって, 整理しなければ役に立たない.

アイデアを整理する際には, まず親和図法やKJ法などを用いて内容の類似性に関してアイデアを集約する. 続いて, 個々のアイデアが顧客のどのような欲求を満たすものであるかに着目して 同一の欲求に関するアイデアをまとめ, 着目する欲求を決めて有望な代替アイデアを絞り込んでゆく. さらに, 製品の市場に対するインパクトなどについて調査・検討をおこなう.

次に, 製品のポジショニングをおこなう. ポジショニングとは, ユーザの認知という観点から既存商品の市場における製品の位置付けをおこなうことである. ポジショニングをおこなう際には, 知覚マップと呼ばれる図を用いる. これは, いくつかの評価基準 (ノートパソコンを例に取れば, 価格, 解像度, CPUの速さ, メモリの量, 重量, バッテリ駆動時間, 振動耐性 など) に関して既存商品の特徴を数量化してプロットした図である. すでに述べたが, ブルー・オーシャン戦略における戦略キャンバス(図[*])も知覚マップの一種である. 2個の評価基準に関してポジショニングをおこなう場合は, 2次元平面に既存商品をプロットした図が用いられる.

[*]に, 各社のノートパソコン (2011年秋冬モデル, 第2世代Core iプロセッサ塔載, バッテリ駆動時間6時間以上, 重量2kg未満) に関する知覚マップを作ってみたものを掲載する. 情報の出所は価格比較サイト www.coneco.net で, 同一メーカーに複数の機種がある場合にはリスト(おすすめ順)最上位のものを1機種のみ選択している.

図: ノートパソコンの知覚マップ
\includegraphics{p-map-2d.eps}

[*]において比較の対象となった機種の一覧は次の通りである.


Conceptual designの技法

Conceptual design は入力として要求仕様, 出力として原理上の解(コンセプト)を持つプロセスである. この過程では, 問題の定義, 情報収集, 概念形成および概念の評価をおこなわなければならない. これらに含まれる手法のうち, 今まで述べられていなかったものについて概説する.

情報収集

設計をおこなう際には, アイデアを練り, ヒントを探し, 新規性について検討し, 法令を遵守し, 知的所有権の問題をクリアする, などの目的のために, 様々な情報源から情報を収集する必要がある. このために用いられる典型的な情報源は, 以下のようなものである.

なお, ドキュメントを作成する際には参考文献を明示する必要があるが, 参考文献の書き方にも一定の決まりがある. 学術論文については学術雑誌の投稿規定に書式が定められているので, それを優先しなければならない. 参考文献の書き方に特化した参考書に文献[12]がある.

体系的な設計の技法

製品に要求される機能が決まると, 次にそれをどのようにして実現するかが問題となる. ここでは, そのための技法をいくつか紹介する. なお, 以下で最初に挙げる品質機能展開は, 製品の機能を決定するための意思決定法を含む.

これは本講義でこれまで述べた事項にもあてはまるのであるが, ここで, 「万能の方法はない」ということを注意しておく. 本講義で取り扱っているのは方法論なのであるが, 方法論にはとかく盲目的な「信者」が付きがちであり, 非合理的な意思決定の温床となることも多い. 方法論には「役に立つかも」程度の斜に構えた態度で望むのが安全であると筆者は考えている.

品質機能展開

品質機能展開(Quality Function Deployment, QFD) は1960年代におけるブリヂストンタイヤの工程保証項目一覧表に始まる[3]. 現代的な意味でのQFD(広義のQFD)は, 以下の2個の事項をまとめたものである[3].

品質機能展開では, 以下のような展開表を作成する[48].

ただし, 必ずしもすべての展開表を作成するわけではない. また, 以上に挙げたもの以外の展開表を作成することもある. 展開表とは, 図[*]のように品質等要素を抽象的なものから具体的なものへと展開していったものである. 展開にあたって, 第[*]節で述べた親和図法によるグルーピングなどが利用される.
図: 品質展開表
\includegraphics{qfd01.eps}
続いて, 要求品質と品質特性等の対応関係をあらわす2元表(後述)を作成し, 重要度および相互の干渉等を分析してゆく. これによって, 要求品質, 設計品質, 設計品質を実現するための製品の機能, 機能を実現するための具体的な機構, 機構に対応するユニットや部品, という順に意思決定してゆくことで製品を実現するのが品質機能展開の考え方である. 表[*]に, 文献[47]に挙げられている, 100円ライターの要求品質と品質要素の2元表の例を示す. 表[*]において, ◎は強い対応, ◯は対応, △は対応が予想される, ということをあらわす.

表: 100円ライターに対するQFDの2元表の例[47]
品質要素展開表
形状寸法 重量 耐久性 着火性 操作性 デザイン性
要求 確実に着火する
品質 使いやすい
展開 安心して携帯できる
長い間使用できる
良いデザインである

また, 異なる品質要素のあいだに関係があるときには, 図[*]のように2元表に「屋根」を付けることがある. 図[*]において, ++は強い正の相関を, +は正の相関を, 負の相関には-,-などの記号を使う. なお, 図[*]における++,+は筆者が記法の例として示したものであり, 内容にはあまり意味はない.

品質機能展開表は, 図[*]のように組み合わせて使われるこもある.

図: QFDにおける異なる品質要素のあいだの関係
図: 品質機能展開表の組み合わせ[48]
\includegraphics{qfd03.eps} \includegraphics{qfd04.eps}

体系的アプローチ[34,52]

体系的アプローチ[52](P&B法と呼ばれることもある[34])は, その名前が示す通り体系的な設計の手法であり, 本資料の相当部分の典拠となっている文献[8]と同様に, 従来知られていたいろいろな設計の方法論を取り纏めたものである. この方法は, conceptual design, embodiment design, detail design およびその前の工程をすべて含む包括的な手法なのであるが, ここでは conceptual design に関連した考え方の一部を紹介する.

体系的アプローチでは, 技術的なシステムを, 入力側の物質・エネルギー・信号を出力側の物質・エネルギー・信号に変換する装置であるというふうに抽象的に考える. そして, システム全体の機能をより小さな下位機能が結合されたものと見倣し, それぞれの下位機能を実現する設計原理を考え, それらを合成することにより全体機能が実現できる組み合わせを見付けることで設計案(多くの場合複数)を作り, 最後に設計案を評価することで, 設計案を確定する.

例として, ウォータークーラーを考える. ウォータークーラーの機能は冷水を噴出することである. 入力側の物質は水道水, エネルギーは電気, 信号は人間がボタンを押す動作である. 出力側の物質は冷水および排水で, エネルギーは排熱であり, 信号の出力はない. そして, その内部には, 水を貯めるという下位機能と, 水を冷やすという下位機能と, 水を噴出するという下位機能があり, これらが接続されている. 水を冷やす機能がタンクに貯めた水を冷やすことであると想定すると, 入力側の物質はなし, エネルギーは電気と熱, 信号は設定温度と水温であり, 出力側の物質はなく, エネルギーは排熱であり, 信号はない. 水を貯めるという機能の入力側の物質は水, エネルギーは電気, 信号は設定水位であり, 出力側の物質は水, エネルギーは熱, 信号は水位と水温である. 水を噴出するという機能の入力側の物質は冷水, エネルギーは電気, 信号は噴出すべき水圧と人間がボタンを押すという動作であり, 出力側の物質は噴出する冷水である. エネルギー, 信号の出力はない. これらをさらに下位機能へと細分することもありうる. なお, 上位機能を下位機能へと展開するやり方は, ひと通りでないこともある. このように展開してから, 個々の下位機能を実現する複数の設計原理を考え, それらを組み合わせて合成することで設計案とするというのが, 体系的アプローチの基本的な考え方である.

下位機能は名詞と動詞の組み合わせで簡潔に表現できるものがよいとされている[34]. どのような動詞が使われるかに興味がある者は文献[34]を参照せよ.

Morphological Method[8]

Morphological Methodとは, 次のような手順のことをいう.
  1. 設計問題を小さい部分問題に分割する.
  2. 個別の部分問題に関し複数の解を求める.
  3. 部分問題の解を組み合わせて製品を合成した複数のデザイン案を作り, 特性を比較する.

たとえば, 要求仕様を満たす部品A, 部品B, 部品C, 部品D の4個を組み合わせると製品が完成し, それぞれの部品が要求仕様を満たすようにする方法が4種類ずつあったとすると, 設計案は4 $ \times $4=16通りになる. この設計案をすべて比較してよいものを選ぼう, というのがMorphological Method の発想である. 先に述べた体系的アプローチは, Morphological Methodと同様の考え方を含んでいる.


TRIZ

TRIZとはロシア語(Теория решения изобретательских задач)を 英語綴りに直したものであり, その名からわかるように旧ソ連で開発された手法である. これは, いわば特許の「リバースエンジニアリング」である. より詳しく言うと, パラメータを39個, 発明原理を40個に大別した「矛盾マトリクス」というものを用いて (詳細は[34]やTRIZの入門書[33]などを参照), 技術的な困難の対策を探す. 矛盾マトリクスは, 既存の特許における 技術的な困難とその解決策の対応関係をまとめ, 技術的な困難から検索できるようにした, 逆引きのデータベースである.

TRIZを更に単純化して,

  1. いくつかに分割してみたらどうか
  2. 前もって準備したらどうか (例: コピー機に通す前に紙を乾燥させる)
  3. 構成や動作を逆にしてみたらどうか (例: 階段(人が歩いて登る)を逆にするとエスカレーターになる)
  4. ダイナミックなものにかえたらどうなるか (例:固定翼と可変翼)
  5. 周期的な動作にしたらどうなるか (周波数を変える等, 例: 蛍光灯, 高周波にすればちらつかない)
  6. 欠点・弱点を逆に生かせないか (例: 粘着力が弱すぎる糊の性質を生かすと貼ってはがせるポスト・イットになる)
  7. それ自体が目的動作をおこなえないか (自己点検, 自己修復, 例: ランフラットタイヤ)
  8. パラメータを変えたらどうか
というキーワードに絞るとよい, という主張もある[14].


Value Engineering (VE)[61]

Value Engineering(VE)は1947年にGE社で提案された製品開発の手法であり, 1960年代から日本にも導入され, 成果を上げている. VEの考え方は,

   価値$\displaystyle =\frac{\text{機能}}{\text{コスト}}
$

と定義し, 機能を高め, あるいはコストを削減することにより製品価値を高めてゆくというものである. より正確には, VEは, 「最低のライフサイクルコストで必要な機能を確実に達成するために製品やサービスの機能的研究に注ぐ組織的努力である」と定義されている. VEの原則は, 使用者優先, 機能本位, 創造による変更, チーム・デザイン, 価値向上である. VEの実行手順は, 機能定義, 機能評価, 代替案作成の3ステップから成る. 機能定義のステップでは, 製品が果たすべき機能を明確化した上で, 機能をより小さい機能の組み合わせに分解して整理する. 機能評価のステップでは, 個別の機能にどれだけのコストがかかっているかを評価する. 代替案作成のステップでは, VE固有の方法は存在せず, 本稿で述べられている様々な手法が組み合わせて用いられる. 詳細については文献[61]を参照せよ.

評価の技法[8]

デザイン案が完成したら, それを評価し, デザイン案が複数あるときにはそれらを比較して, 相対的に優れたものを選ぶ必要がある. 本節ではそのための技法について述べる.

準備的な評価

設計案の詳細な評価には手間がかかるので, それに先立って, 次のような前処理を順におこない, 役に立つ設計案のみを抜き出しておくとよい.
  1. 実行可能性のチェック: 設計案は, 次の3種類に分類される.
    1. 実行不能. 実行不能な設計案はこの時点で棄却されるが, 単に捨てるのではなく, その設計案から得られる有用な知見を(あれば)収集する.
    2. 条件付きで実行可能(新技術が必要など).
    3. 条件なしで実行可能.
  2. 技術的な容易さのチェック: 多くの場合, 設計には成熟した技術が用いられ, これから新技術の開発に成功しなければ設計ができないような設計案が採用されることは例外的である. よって, 以下の項目をチェックする.
    1. 既存の方法で生産できるか.
    2. その機能に決定的な影響を及ぼすパラメータはわかっているか.
    3. 安全に使えるパラメータ値の範囲とパラメータに対する感度がわかっているか.
    4. 故障モードがわかっているか.
    5. 上記すべてについて肯定的な回答を与えるハードウェアが既に存在するか.
  3. 顧客の要望(ふつうは複数ある)を満足するか否かのチェック.
この段階で, いくつかの項目で否定的な評価となっている設計案について, 他の案を参考にして改良をおこない, 問題を潰すこともあり得る.


Pugh Concept Selection Method

Pugh Concept Selection Methodは, 設計案のなかで基準となるものをひとつ選び, いくつかの評価項目に関する基準設計案との相対的な優劣を評価することで設計案を選ぶ, という方法である. この手順は以下の通りである.
  1. 評価項目を選ぶ(15$ \sim$20個程度). 選択にあたり, 品質機能展開で作成した表を参考にする.
  2. 各行に評価項目, 列に設計案を記入した表[*]のような表を作成する.

    表: Pugh Concept Selection Method (1)
      設計案
      A B C D $ \cdots$
    評価項目1          
    評価項目2          
    評価項目3          
    $ \cdots$          

  3. 設計上のコンセプトを明確にする.
  4. 設計案のどれかひとつを比較の対象となる基準案として選ぶ. 基準案として選んだ欄には, `DATUM'などと書いておく.
  5. 各項目について基準案と各設計案を比較し, その設計案の方が良ければ + , その設計案の方が悪ければ - , 同等なら = を記入する. この過程で各設計案が改良されることもあり得る. 得られた表はたとえば表[*]のようになる(設計案Bが基準案として選ばれたと想定している)

    表: Pugh Concept Selection Method (2)
      設計案
      A B C D $ \cdots$
    評価項目1 + D - =  
    評価項目2 = A - -  
    評価項目3 = T + -  
    $ \cdots$   U      
    $ \cdots$   M      

  6. 評価に基づいて設計案の優劣を決める. そのための定量的な方法は定められていないが, たとえば + と - の数を集計する, という方法があり得る. ただし, その時点で使っている評価項目が十分でないこともあり得るので, +や-の個数の些細な差を問題にし過ぎないようにする.
  7. 評価が良かった設計案をいくつか選び, 評価項目を作り直して, 再評価する.
  8. 上記のようにして最終的にひとつの設計案を選び, それに更に改良の余地があるか否かを検討する.


重み付けと点数化

[*]節で述べたPugh Concept Selection Method では, 設計案の優劣を, 基準案との比較(+,=,-)によっておこなった. この評価をもう少しきめ細かくしたい(各項目を100点満点で採点する, 0以上1以下の数値で評価するなど)ということはあり得る. また, 評価結果に基づき設計案を比較する際, 全体を点数化すれば比較がしやすい. ところで, 複数の評価項目の重要性はすべて同等とは限らないから, 重要なものの配点を大きくする「傾斜配点」をした方がよさそうである. 個別の項目を点数で評価することについては(客観的にできるかどうかはともかくとして)疑問が発生する余地はないと思われるので, 本節では重みの付け方について述べる.

まず最初に, 評価項目が3個あり, 個々の評価項目について設計案A, 設計案B, 設計案Cが0点以上1点以下の数値で評価されている, という状況を考える. 評価項目1から評価項目3までに関する設計案$ A$の得点が$ s_{A1}$, $ s_{A2}$, $ s_{A3}$, 設計案$ B$の得点が$ s_{B1}$, $ s_{B2}$, $ s_{B3}$, 設計案$ C$の得点が$ s_{C1}$, $ s_{C2}$, $ s_{C3}$であったものとする. それぞれの設計案の総得点を0以上1以下の値で求める最も簡単な方法は

$\displaystyle \begin{split}
\text{設計案Aの得点}&=\frac{1}{3}\left ( s_{A1}+s_...
...{設計案Cの得点}&=\frac{1}{3}\left ( s_{C1}+s_{C2} + s_{C3}\right )
\end{split}$

のようにすることであるが, たとえば評価項目1と評価項目2の重要性が同等で, 評価項目3の重要性がこれらの倍であるときには,

$\displaystyle \begin{split}
\text{設計案Aの得点}&=\frac{1}{4} s_{A1}+\frac{1}{...
...Cの得点}&=\frac{1}{4} s_{C1}+\frac{1}{4}s_{C2} + \frac{1}{2}s_{C3}
\end{split}$

のようにすればよい. 一般に, 評価項目が$ n$個あり, ある設計案のそれぞれの項目に関する得点が$ s_1$から$ s_n$であるときに, 評価する者が$ w_1 >0$, ..., $ w_n > 0$, $ \sum_{i=1}^{n}w_i=1$を満たす重み $ w_1,\ldots,w_n$を(何らかの手段で)決め,

   設計案の得点$\displaystyle =w_1 s_1 + \cdots + w_n s_n
$

のように定めれば, 重み付きの点数化ができる.

次に, 評価項目が階層構造を持っている場合を考える. 具体的には, たとえば要求品質が表[*]のように2次要素にまで展開されている場合である.

表: 2次要素まで展開された要求品質の例
1次要素 2次要素
操作しやすい 表示が見やすい
  ボタンが押しやすい
  誤操作が起きにくい
携帯しやすい 軽い
  丈夫

そして, 1次要素間を比較すると操作しやすさは携帯しやすさに比べて倍重要, 2次要素のあいだでは, ボタンの押しやすさと誤操作の起きにくさの重要度は同等で 画面の見やすさはその倍重要, 丈夫さは軽さの3倍重要, ということにしておく. この場合は, 1次要素全体を合計が1になるように重み付けし, 2次要素については対応する1次要素の範囲内で重み付けすると, 図[*]のようなツリー状に構造化された重み付けが得られる.
図: 2次要素を含む評価項目の重み付け
\includegraphics{eval_weight.eps}
このようになっている場合, 個別の評価項目の重みは, 木の根本から出発してその項目に到達するまでに通過した枝の重みをすべて掛けることで得られる. たとえば, 図[*]では, 「表示が見やすい」の重みは $ \frac{2}{3} \times \frac{1}{2} = \frac{1}{3}$, 「軽い」の重みは $ \frac{1}{3}\times \frac{1}{4}=\frac{1}{12}$である. 一般の場合も同様である. 1次要素が$ n$個あり, $ i$番目の1次要素に対応する2次要素が$ k_i$個あるときには, まず1次要素の重み $ w_1,\ldots,w_n$$ w_1 >0$, ..., $ w_n > 0$, $ \sum_{i=1}^{n}w_i=1$となるように定め, 続いて$ i$番目の1次要素に対応する$ k_i$個の2次要素の重み $ w_{i1},\ldots,w_{i k_i}$$ w_{i1} >0$, ..., $ w_{ik_i} >0$, $ \sum_{j=1}^{k_i}w_{i k_j}=1$となるように定める. $ i$番目の1次要素の中の$ j$番目の2次要素に最終的にかかる重みは, 関連する重みの積, すなわち $ w_i \times w_{ij}$である. 2次要素がさらに展開されている場合も考え方は同様である.


Analytic Hierarchy Process (AHP)

[*]節で述べた設計案を重みを用いて点数化する手法では重みの付け方や点数の付け方は評価者に任されていたが, これらを客観的におこなうのは必ずしも容易ではない. 第[*]節で述べた比較による方法の方が容易である. 評価者には評価項目間の相対的な重要性と設計案の相対的な良し悪しを比較させ, 点数化は機械的におこなう, というのが これから述べるAnalytic Hierarchy Process (AHP)という方法である. AHPにもさまざまなバリエーションがあるが, 本節では文献[8]で紹介されている方法について述べる.

評価基準および設計案はいくつあってもよいのだが, 話を単純化するために, C1からC4までの4個の評価項目があり, P1からP3までの3個の設計案が仕上がっていて, これらを定量的に比較したい, という状況を考える. AHPによってこれをおこなう手順は次のようなものである.

  1. 評価者が以下に述べる手順に従ってC1からC4までの比較をおこなう. 重みはそのデータから自動的に計算される.
  2. C1からC4までの各々の評価基準に関して, 評価者が 以下に述べる手順に従ってP1からP3までの比較をおこなう. 各々の評価基準に関する得点はそのデータから自動的に計算される.
  3. 得点に重みを掛けて各々の設計案を点数を求め, 比較によりもっとも優れたものを選ぶ.

まずC1からC4までの比較の手順について述べる. 表[*](a)のような表を作り, 各欄に対応する比較結果を書き込んでゆく. 第1行には, C1と比較したC1, C2, C3, C4の重要度を記入してゆく. 数値の決め方は, C1とC2が同等なら1とし, C1がC2より重要ならその程度に応じて 3, 5, 7, 9 とする. C1とC3, C1とC4についても同様である. C1とC1は同じだから1とする. 数値の決め方の目安は, 3: やや重要, 5:とても重要, 7:とても重要(証拠あり), 9:決定的に重要(決定的な証拠あり)である. 逆にC1がC2より重要でないならその程度に基づき $ \frac{1}{3}$, $ \frac{1}{5}$, $ \frac{1}{7}$, $ \frac{1}{9}$ のいずれかの数値を記入する. 次に, 表の第1列を埋めるのだが, この際には, たとえば第1行2列の評価が3であれば(C1の重要度はC2の3倍) 第2行1列の評価は $ \frac{1}{3}$ (C2の重要度はC1の $ \frac{1}{3}$)のように, 機械的に数値を入れる. 第3行1列以下についても同様である. 続いて, 第2行に関し, まだ数値が埋められていない欄に上記の手順で数値を入れてゆき, 続いて第2列に上記と同様の手順で数値を入れる. 第3行および第3列以降についても同様である. 表[*]では, 各欄に上記の基準に適合する適当な数値が既に入れられている. 続いて, C1からC4までの各列について, その列の数値を集計し, その値を用いて各列を正規化する(合計が1になるようにする). 表[*](b)はこの操作をおこなったものである. 数値は小数で表記することが多いが, ここでは分数で表記してある. さらに, 各行の平均を取り, それを各々の評価項目の重み$ w$とする. これは表[*](b)の右側の「平均」の欄に書かれているが, 改めて抜粋しておくと,

$\displaystyle w=
\begin{pmatrix}
w_1 w_2 w_3  w_4
\end{pmatrix}=
\begin{pmatrix}
\frac{3}{14} \frac{1}{14} \frac{1}{14} \frac{9}{14}
\end{pmatrix}$

である.

比較をおこなうのは評価者であるが, その評価は必ずしも客観的であるとは限らず, そのために評価に矛盾が発生することがある. 表[*]はC2=C3 $ <$ C1 $ <$ C4という相対的な重要度の関係を前提にして作成されているため, 矛盾はないのだが, 評価者が事前にこのような構造を把握せずに場当たり的に各欄に数値を埋めていった場合には, おかしな表ができることがある. たとえば, 評価者が第1行を埋めたあとで, 第2行を埋めているとき, なんだかC4よりC2の方が重要なような気がして, その数値を表に書き込んだものとしよう. 第1行の結果から, C1はC2より重要で, C4はC1より重要だから, C4はC2より重要な筈なのだが, このようにしても, AHPの計算は機械的にできてしまう. このようにして得られた結果が表[*]である. このように, 評価表には矛盾が含まれる場合があるので, これをそのまま使うのは危険であり, 何らかの方法で評価に矛盾があるか否かを検証し, 矛盾がある評価表は作り直すことが望ましい.


表: 評価基準の比較
(a)各項目の比較と集計
$ \begin{array}[t]{\vert c\vert c\vert c\vert c\vert c\vert}
\hline
&\text{C1}...
...\\
\hline
\hline
計&\frac{14}{3}&14&14&\frac{14}{9}\\
\hline
\end{array}$
 
(b)正規化と平均
$ \begin{array}[t]{\vert c\vert c\vert c\vert c\vert c\vert\vert c\vert}
\hline...
...frac{9}{14} & \frac{9}{14} & \frac{9}{14}&\frac{9}{14}\\
\hline
\end{array} $
表: 評価基準の比較(矛盾あり)
(a)各項目の比較と集計
$ \begin{array}[t]{\vert c\vert c\vert c\vert c\vert c\vert}
\hline
&\text{C1}...
... 計&\frac{14}{3}&\frac{16}{3}&\frac{16}{3}&\frac{22}{3}\\
\hline
\end{array}$
 
(b)正規化と平均
$ \begin{array}[t]{\vert c\vert c\vert c\vert c\vert c\vert\vert c\vert}
\hline...
...c{1}{16} & \frac{1}{16} & \frac{3}{22}&\frac{557}{2464}\\
\hline
\end{array}$

[*](a), [*](a)のような比較表の妥当性を検証する目安について述べる. 話を一般化して, $ n$個の要素を比較して重み付けをしようとしているものとする. 表[*], [*]の例では, $ n=4$である. 表[*](a)のような表の第$ i$行, 第$ j$列の数値を$ c_{ij}$とし, これらを集めた行列を$ C$とする(合計欄は除く). 合計欄を除くから, $ C$は正方行列になる. また, 上に述べた一連の手順によって得られた重み$ w_i$をまとめて縦ベクトルにしたものを$ w$と書き, さらに$ v=Cw$とする.

$\displaystyle \lambda=\frac{1}{n}\left ( \sum_{i=1}^{n} \frac{v_i}{w_i} \right ),$   CI$\displaystyle =\frac{\lambda-n}{n-1},$   CR$\displaystyle =\frac{\text{CI}}{\text{RI}}$ (1)

とし, CR$ <0.1$ならその比較表は妥当と見倣す, というのがその手順である. ただし, RIは比較のための定数で, $ n$の値に応じて定められるが, 文献[8]では表[*]のようになっている.
表: RI一覧
n 3 4 5 6 7 8 9  
RI 0.52 0.89 1.11 1.25 1.35 1.4 1.45  
n 10 11 12 13 14 15  
RI 1.49 1.51 1.54 1.56 1.57 1.58  

[*]に関し, 上記を用いて$ \lambda$, CI, CRを計算すると, $ \lambda=4$, CI$ =0$, CR$ =0$となる. よって, CR$ <0.10$だから, 表[*]の比較表は妥当である. 一方, 表[*]に関し, 上記を用いて$ \lambda$, CI, CRを計算すると, $ \lambda=5.64$, CI$ =0.55$, CR$ =0.62$である. よって, CR$ \geq 0.10$だから, 表[*]の比較表は妥当ではなく, 作り直すべきである. ([*])を用いて比較表の妥当性を検証することの根拠については本節の最後に述べる.

続いて評価基準 C1, C2, C3, C4のそれぞれについて設計案P1, P2, P3を比較する. どの評価基準についてもやることは同じなので, ここでは これからC1に関する評価をおこなうことを想定して話を進める. 表[*](a)のような表を作り, 各欄に対応する比較結果を書き込んでゆく. 第1行には, P1と比較したP1, P2, P3の良さを記入してゆく. 数値の決め方は, P1とP2が同等なら1とし, P1がP2より良ければその程度に応じて 3, 5, 7, 9とする. P1とP3の比較についても同様である. P1とP1は同じだから1とする. 数値の決め方の目安は, 3: やや良い, 5:とても良い, 7:とても良い(証拠あり), 9:決定的に良い(決定的な証拠あり)である. 逆にP1がP2より悪いならその程度に基づき $ \frac{1}{3}$, $ \frac{1}{5}$, $ \frac{1}{7}$, $ \frac{1}{9}$ のいずれかの数値を記入する. 次に, 表の第1列を埋めるのだが, この際には, たとえば第1行2列の評価が3であれば(P1の重要度はP2の3倍) 第2行1列の評価は $ \frac{1}{3}$ (P2の重要度はP1の $ \frac{1}{3}$)のように, 機械的に数値を入れる. 第3行1列についても同様である. 続いて, 第2行に関し, まだ数値が埋められていない欄に上記の手順で数値を入れてゆき, 続いて第2列に上記と同様の手順で数値を入れる. 第3行および第3列についても同様である. 表[*]では, 各欄に適当な数値が既に入れられている. ただし, この例では, P3 $ <$ P1 $ <$ P2という状況を想定している. 続いて, P1からP3までの各列について, その列の数値を集計し, その値を用いて各列を正規化する. 表[*](b)はこの操作をおこなったものである. さらに, 各行の平均を取ったものを, この評価項目に関する各設計案の得点とする. 続いて, 先と同様に, 表[*](a)の整合性をチェックする. 今度は, 3個の要素の比較をしているので, $ n=3$であり, 表[*]より, RI=0.52であり, ([*])にしたがって計算すると, $ \lambda=3.01$, CI$ =0.0035$, CR$ =0.0068$となる. よって, CR$ <0.1$だから, 表[*](a)の表は妥当である. 先と同様に, CR$ \geq 0.1$となった場合は, 比較をやり直す必要がある. 評価基準C1に関する各設計案の評価は表[*](b)の右側にならんでおり, これを$ e_{C1}$とすると,

$\displaystyle e_{C1}=
\begin{pmatrix}
\frac{3233}{13299}\\
\frac{8893}{13299}\\
\frac{391}{4433}
\end{pmatrix}$

である.
表: C1に関する設計案の比較
(a)各項目の比較と集計 (b)正規化と平均
$ \begin{array}[t]{\vert c\vert c\vert c\vert c\vert}
\hline
&\text{P1}&\text{...
...&1\\
\hline
\hline
計&\frac{13}{3}&\frac{31}{21}&11\\
\hline
\end{array}$ $ \begin{array}[t]{\vert c\vert c\vert c\vert c\vert\vert c\vert}
\hline
&\tex...
...c{1}{13} & \frac{3}{31} & \frac{1}{11}&\frac{391}{4433}\\
\hline
\end{array}$

同様の手順によって, 評価基準$ C2$に関する各設計案の評価$ e_{C2}$, 評価基準$ C3$に関する各設計案の評価$ e_{C3}$, 評価基準$ C4$に関する各設計案の評価$ e_{C4}$が求められる. これらが求まったら,

$\displaystyle w_1 e_{C1}+w_2 e_{C2}+w_3 e_{C3}+w_4 e_{C4}
$

というベクトルを作る. このベクトルの第1成分, 第2成分, 第3成分がそれぞれP1, P2, P3の総得点である. 総得点がもっとも高いものを設計案として採用すればよい. 評価基準や設計案の数がもっと多いときも, 行列およびベクトルの次元が高くなるだけで, 手順は上記と同一である.

続いて, 先送りしていた, ([*])を用いて比較表の妥当性を検証することの根拠について述べる. 比較する項目の数が$ n$であるものとし, 比較によって得られた表[*](a)に相当する行列を

$\displaystyle C=
\begin{pmatrix}
c_{11}&\ldots&c_{1n}\\
\vdots & &\vdots \\
c_{n1}&\ldots&c_{nn}\\
\end{pmatrix}$

とする. $ C$は正方行列で, 比較表の作り方を思い出すと, $ c_{ii}=1$, $ i=1,\ldots,n$で, 各成分は正であり, $ c_{ij}=\frac{1}{c_{ij}}$(対角線を狭んで反対側の要素は互いに逆数になっている)ということがわかる. 以下に証明を述べるが, このとき, ([*])の$ \lambda$はつねに$ n$以上となるので, CI$ \geq 0$, CR$ \geq 0$となる. また, 比較表がある意味で「完璧」な場合には, $ \lambda=n$となり, よってCI=0, CR=0となる. よって, CRが0に近ければおそらく比較表は妥当であろうと考えるのである. $ \lambda-n$$ 1/(n-1)$で割るのは, 比較表が大きくなるにしたがって$ \lambda-n$が大きくなることを補正するための措置であり, これに加えてRI を用いた補正がなされるが, これらは経験的な数値である. CRの閾値0.1にも明確な根拠はない.

では, $ \lambda \geq n$となることの証明を述べる. 実は, 重みベクトル$ w$については, 各成分が正であれば, 上で述べられた手順で作成されたか否かにかかわらず, これを用いて([*])にしたがって$ \lambda$を計算するとつねに $ \lambda \geq n$となることが示される. よって, $ w$の成分の具体的な式は当面は必要ではない. $ w$$ n$次のベクトルであるが, この第$ i$成分を$ w_i$とする. とする. $ \lambda$を計算するために, $ v=Cw$の各成分を対応する$ w$の成分で割ったものの平均を取ったのだが, この式を改めて書き直すと,

$\displaystyle \lambda =\frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n} \frac{\sum_{i=1}^{n}c_{ij}w_j}{w_i} =\frac{1}{n}\sum_{i,j=1}^{n} c_{ij}\frac{w_j}{w_i}$ (2)

となる. ([*])を$ i=j$$ i \neq j$の項に分け, 前者については$ i=j$なら$ w_i=w_j$なのでこれをキャンセルし, 後者について$ i<j$の項と$ i>j$の項をまとめ, さらに $ c_{ji}=\frac{1}{c_{ij}}$を使うと,

$\displaystyle \lambda$ $\displaystyle =\frac{1}{n}\left ( \sum_{i=j} c_{ij}\frac{w_j}{w_i} +\sum_{i\neq j} c_{ij}\frac{w_j}{w_i} \right )$    
  $\displaystyle =\frac{1}{n}\left (\sum_{i=1}^{n} c_{ii} +\sum_{i> j} \left ( c_{ij}\frac{w_j}{w_i} +\frac{1}{c_{ij}}\frac{w_i}{w_j} \right ) \right )$ (3)

となる. さて, ([*])の第2項では, $ \theta+\frac{1}{\theta}$という形の項が $ \frac{n(n-1)}{2}$個足し合わされている. ここで, $ f(\theta)=\theta+\frac{1}{\theta}$とおくと, $ f^{\prime}(\theta)=1-\frac{1}{\theta^2}$, $ f^{\prime\prime}(\theta)=\frac{2}{\theta^3}$であるから, $ f(\theta)$$ \theta>0$において下に凸で, $ \theta=1$において唯一の極小値(すなわち最小値)を取ることがわかる. この最小値は2である. よって, $ f(\theta) \geq 2$である. 一方, $ c_{ii}=1$である. これらを用い, ([*])の第2項の項数が $ \frac{n(n-1)}{2}$であることを用いると,

$\displaystyle \lambda \geq \frac{1}{n}\left (n +\frac{n(n-1)}{2} \times 2\right ) =\frac{n^2}{n}=n$ (4)

となる. 以上によって $ \lambda \geq n$であることの証明が終わった.

次に, 比較表がある意味で「完璧」な場合には$ \lambda=n$となることについて述べたいのであるが, そのためにはまず「比較表が完璧」とはどういうことかを考えておかなければならない. 完璧な比較表を定義するために, ([*])のように, 比較表の第1行および第1列だけが埋まっている状況を考えよう. 第1行には第2項目以降と比較して第1項目がどの程度重要(あるいは良い)かの数値が記入されているのだが, これが定量的に正しい, すなわち第1項目は第2項目より正確に$ r_2$倍重要(あるいは良く), ..., 第1項目は第$ n$項目より正確に$ r_{n-1}$倍重要(あるいは良い), という状況を考える.

$\displaystyle C= \left ( \begin{array}{c\vert ccc} 1&r_2&\cdots&r_n \hline \frac{1}{r_2}& && \vdots & & &  \frac{1}{r_n}& && \end{array} \right )$ (5)

評価が定量的であるなら第2項目を基準とした評価は第1行の評価を第(2,2)成分が1となるように定数倍したものとなる筈であり, したがって([*])の第2行は第1行の$ 1/r_2$倍とならねばならない. 他の行についても同様である. したがって, 評価が定量的なら, 比較行列は([*])から, ([*])のように定まる. 本節ではこれを「比較表が完璧である」と定義する.

$\displaystyle C= \left ( \begin{array}{c\vert ccc} 1&r_2&\cdots&r_n \hline \f...
...s & & & \vdots  \frac{1}{r_n}&\frac{r_2}{r_n}&\cdots&1 \end{array} \right )$ (6)

比較行列が([*])のようになっているものとし, この第1列の成分の和を$ s$としよう.

$\displaystyle s=1+\frac{1}{r_2}+\cdots+\frac{1}{r_n}
$

である. このとき, 第2列の成分の和は$ r_2 s$, ..., 第$ n$列の成分の和は$ r_n s$となる. よって, 各列の要素の和が1となるように各列の成分を正規化した行列を$ C_{N}$, ここから各行の要素の平均を取って得られるベクトルを$ w$とすると,

$\displaystyle C_{N}=\frac{1}{s} \begin{pmatrix}1&1&\cdots&1 \frac{1}{r_2}&\fr...
...1}{s} \begin{pmatrix}1 \frac{1}{r_2} \vdots \frac{1}{r_n} \end{pmatrix}$ (7)

であり, したがって

$\displaystyle v=Cw= \frac{n}{s} \begin{pmatrix}1 \frac{1}{r_2} \vdots \frac{1}{r_n} \end{pmatrix}$ (8)

である. 記法の便宜状$ r_1=1$とおくと, ベクトル$ v$の第$ i$成分$ v_i$ $ v_i=\frac{n}{s r_i}$, ベクトル$ w$の第$ i$の成分$ w_i$ $ w_i=\frac{1}{sr_i}$だから, $ \frac{v_i}{w_i}=n$であり, $ \lambda$はこれらの平均であったからやはり$ n$である. 以上によって, ここで述べた意味で比較表が完璧であれば $ \lambda=n$となることの証明が終わった.

Embodiment design, Detail design

Embodiment design および Detail design の段階では, 物理的な構成部品の配置, 素材と製造過程, パラメータ等を決定し, 製図をおこない, 製品に関するドキュメントを作成し, デザインレビュー(後述)によって 最終的な評価をおこなう. 一般論としてはこの段階における技法は Conceptual designのそれとさほど変わらないが, 素材の選定, 製造工程の決定, パラメータの決定, 製図などに関し, 製品固有の意思決定が必要である.

パラメータの決定については, 一般に仕様を満たすためのパラメータは一意的には決まらないので, 許容されるパラメータの中からどれを選ぶかということが問題となる. このための手法のひとつに, ロバスト設計(タグチメッソド)[58]がある.

人工的な例であるが,

$\displaystyle y=\frac{x_2}{1+x_1} u$ (9)

という入出力関係を持つシステムにおいて, $ y=x$となるよう パラメータ$ x_1,x_2$を定めたい, という状況を考える. このためには$ x_2=1+x_1$とすればよく, 解は無数にある. 次に, ([*])が電子回路によって実現され, $ x_1,x_2$は回路部品で, その数値には設定値( $ x_{10},x_{20}$とする)から最大10%の誤差が見込まれるとき, ([*])の入出力関係に どの程度の影響が出るかを考える. $ x_{10}$$ -0.5$から$ 10$までのあいだを動いたとき, $ x_2/(1+x_1)$の最小値と最大値は図[*]のようになる. そして, $ x_{10}=0,x_{20}=1$としたとき, ([*])の挙動はもっとも誤差の影響を受けにくい, ということになる. これは, 「余分な部品はなくした方が($ x_1=0$)よい」という意味で, 直観的にも理解しやすい結果であろう.
図: パラメータ誤差の入出力関係に与える影響
\includegraphics{t01.eps}

より一般に,

$\displaystyle y=f(x;u), \quad x=(x_1,\ldots,x_n)$ (10)

という入出力関係を持つシステムがあり, $ u$が集合$ U$を動くとき, このシステムの挙動を$ y=g(u)$と一致させたい, という状況を考える($ y,u$は適当な次元のベクトルであり, 解は存在するものと仮定する). この問題の解は $ (\forall u)(f(x;u)-g(u)=0)$を解くことにより得られる. 続いて, $ x_i$が設定値$ z_i$を中心とする半径$ r_i$の閉球 $ \overline{B}_i$内に含まれる( $ i=1,\ldots,n$)ことまでわかっているとき, $ x_1,\ldots,x_n$の不確かさが([*])の挙動に与える影響を最小にしたい, という状況を考える. このためには,

$\displaystyle \min_{z_1,\ldots,z_n}\max_{x_i \in \overline{B_i},i=1,\ldots,n}\max_{u \in U}J(f(x;u),g(u);u))
$

を解けばよい($ J$は適当な評価関数). これは非線形計画法を用いれば数値的に解ける問題である. ([*])にさらに有界な外乱 $ d_1,\ldots,d_k$が含まれる場合, すなわち

$\displaystyle y=f(x,d;u), \quad x=(x_1,\ldots,x_n), \quad d=(d_1,\ldots,k_n)
$

で, 各$ i$に対しある$ \rho_i>0$が存在して $ \Vert d_i\Vert\leq \rho_i$となっている場合にも,

$\displaystyle \min_{z_1,\ldots,z_n}\max_{\stackrel{x_i \in \overline{B_i},\Vert d_i\Vert\leq \rho_i,}{i=1,\ldots,n}}\max_{u \in U}
J(f(x,d;u),g(u);u))
$

のように解くべき minimax 問題が若干複雑になるだけで, やることは本質的に変わらない.

このように, 入出力関係をあらわす数式が厳密にわかっているときには, その変動がシステムにおよぼす影響が最小となるようなパラメータの値を数値的に求めることができるのだが, 数式が未知で実験によってパラメータを選ぶしかない場合には, このような手段は使えない.

可能な限り少ない実験によってロバストなパラメータを求めるために使われる手法がタグチメソッドである. タグチメソッドでは, 直交実験, SN比と呼ばれる尺度による評価, 2段階設計といった手法によってパラメータが選定される. タグチメソッドはいささか技巧的なので, ここでは詳しい説明は避ける. 文献[58,60]等を参照してほしい.


Industrial Engineering (IE)[28]

設計の話から離れるが, 製造段階でのコストダウン等に用いられる手法のひとつであるIndustrial Engineering (IE) について述べておう. IEは以下のような要素から成る. 例えば, ハンマー打ちの工程では, ハンマーを振り上げるのは予備動作であって基本生産時間 (生産のために真に有効な時間)ではなく, 予備動作が不要な治具等を開発することにより効率を上げることができる可能性がある, というのがIE的な考え方である.

信頼性と安全性

デイペンダビリティ(信頼性)関連用語

英単語 dependability および reliability の日常的な意味での日本語訳はいずれも「信頼性」となるのであるが, JIS では 前者を デイペンダビリティ, 後者を信頼性と呼んで区別している. 日常言語における「信頼性」は, おおむね製品等が正常に動作することを称するのであるが, これに関連したもっとも包括的な概念が デイペンダビリティ である.

JIS Z8115では, デイペンダビリティの対象となる物品をアイテムと呼ぶ. 正式な定義は以下の通りである.

以下に, JIS Z8115[26]により, デイペンダビリティに関連した主要な用語をまとめておく.

デイペンダビリティは非数量的用語で, 一般的な記述のみに用いられる. これに対し, アビラビリティ, 信頼性, 保全性は数量化される.

信頼性性能を数量的に表したものが信頼性特性値である. これには, たとえば次のようなものがある[26,44,53].

保全という言葉は日常生活では常用されないが, これもJIS Z8115で規定されている. 関連用語は以下の通りである.

保全は以下のように分類される.

上記において, 状態監視, 故障およびフォールトは以下のように定義される. 故障とフォールトの使い分けは, 故障はある時点で発生したイベント(壊れる)であるのに対し, フォールトは状態(壊れている)である, という点にある.

保全性を数量的に表したものを保全性特性値という. これには, たとえば次のようなものがある[26].

アベイラビリティの定量的な定義には, 次のようなものがある[26,44].

さらに, 要求された外部資源が供給されるとき, 与えられた時点において, アイテムが与えられた条件の下で要求機能遂行状態にない確率を瞬間アンアベイラビリティと定義する. 同様にして平均アンアベイラビリティ, 漸近アンアベイラビリティ, 漸近平均アンアベイラビリティが定義される.

信頼性設計

アイテムに信頼性を付与する目的の設計技術のことを信頼性設計という. このための考え方および手法には, 以下のようなものがある[11,26,39,53,42].

続いて, FEMA, FTA, デザインレビュー, 保全性設計について概略を述べる.

フォールトモード・影響解析(FMEA)

フォールトモード・影響解析に関連した事項は, JIS Z8115[26]において以下のように規定されている.
i)
フォールトモード・影響解析, FMEA: あるアイテムにおいて, 各下位アイテムに存在し得るフォールトモードの調査, 並びにその他の下位アイテム及び元のアイテム, さらに, 上位のアイテムの要求機能に対する フォールトモードの影響の決定を含む定性的な信頼性解析手法. Fault mode and effects analysis, failure mode and effects analysis.
ii)
フォールトモード・影響及び致命度解析, FMECA: FEMAに付加して, フォールト発生の確率及びフォールトによる影響の重大さの 格付けを考慮する定性的な信頼性解析手法. Fault modes, effects and criticality analysis, failure modes,effects and criticality analysis.
``Fault mode,...''の方は新しい呼称, ``failure mode,...''の方は古い呼称で, 同じ概念である.

FMEAはシステムの構成部位をリストアップし, 個々の部位の故障がシステムに与える影響を調べ, 影響度が高いものから対策をしてゆくボトムアップ的な手法である. FMEAの手順は解析の対象によって異なるが, 以下に文献[49,42,53]の記述をまとめたものを示す.

  1. 準備: システムの任務, 構成ブロック, 機能, 制約条件などを確認し, ワークシートを準備する. ワークシートには標準的 な様式がある(文献[49]などを参照).
  2. 対象部位をリストアップし, ブロック図を作成する.
  3. 対象部位ごとに故障モードを選定する.
  4. 選定された故障モードごとに推定原因を列挙する.
  5. システムへの影響を解析する.
  6. 重要度を評価し, 対策項目を絞り込む.
  7. 対策案を考え, 実施する.
  8. 対策の効果を再評価する.
FMECAでは, 上記に故障の致命度に関する評価が追加される.

フォールトの木解析(FTA)

フォールトの木解析(Fault Tree Analysis, FTA)は, FMEAと異なり, 発生させたくない故障等から出発して因果関係を ツリー状に辿ってゆくトップダウン的な手法であり, 特性要因図と類似した構造を持っている. FTAに関連した事項は, JIS Z8115[26]において以下のように規定されている. なお, フォールトの木(Fault Tree)のことをFTと略す.

FTAはおおむね以下のような手順で実行される[42,53].

  1. トップ事象(好ましくない事象)を選定する.
  2. トップ事象を1次要因, 2次要因, ...と展開していった FT図を作成し, 必要に応じてboole代数を用いて修正する.
  3. 重要要因を絞り込む.
  4. 対策を実施する.
FT図の作成には, 図[*]のような図記号が用いられる.
図: FTに用いられる図記号
\includegraphics{FTA02.eps}
展開事象: 基本事象などの組み合わせでおこる事象
.
\includegraphics{FTA03.eps}
基本事象: これ以上展開することを考えない基本的な事象.
.
\includegraphics{FTA04.eps}
非展開事象: 情報不足, 技術未熟のため, これ以上展開できない事象, 展開不要な事象.
.
\includegraphics{FTA05.eps}
通常事象: 自然現象等通常発生している事象.
.
\includegraphics{FTA06.eps}
ANDゲート: すべての下位事象が発生しているとき上位事象が発生する.
.
\includegraphics{FTA07.eps}
ORゲート: 下位事象のいずれかが発生しているとき上位事象が発生する.
.
\includegraphics{FTA08.eps}
制約ゲート: 条件が満たされるときのみ上位事象が発生する.
.
\includegraphics{FTA09.eps}
移行記号(IN)
.
\includegraphics{FTA10.eps}
移行記号(OUT)
.
[*]に簡単なFT図を示す.
図: 簡単なFT図の例
\includegraphics{FTA01.eps}
FTAにはCADソフトウェアが利用可能である. 商用, フリーウェアの双方が存在する. たとえば, OpenFTAは, 以下のサイトから入手できる, FTAのためのフリーウェアである.
http://www.openfta.com/

デザインレビュー

デザインレビューは設計の手法そのものではなく, その名の示す通り設計の審査である. JIS Z8115の定義を述べる[26]. デザインレビューは, 企画・構想, 設計, 生産準備の各段階でおこなわれることがある. 参加メンバーは段階によって異なるが, 企画, 営業, 開発, 設計, 生産技術, 品質保証等のさまざまな部門が関与する. また, 審査の対象となる事項も, 品質, 信頼性, 価格, 納期, 環境に関する問題等, 多岐にわたる. 手法として用いられるのは主にディスカッションとチェックリストであり, デザインレビューの結果を踏まえて改善案が作成される. 詳細については 文献[42,53]などを参照すること.

信頼性とコストの間にはトレードオフが存在するので, これを踏まえた意思決定が必要である.

保全性設計

保全性を高める設計を保全性設計という. このための基準は, 次のように要約される[11]. 保全性設計は相当量のチェックリストを用いて実行されるが, 詳細は略す(文献[11]参照).

安全性工学

本節では, おもに文献[13,17,36,51,44]にしたがって安全性工学について述べる. 以下の議論は必ずしも設計に限定されるわけではない.

JIS Z8115における安全性の定義は, 次のようになっている[26].

JISでは, 機械類, 計測制御機器, オーディオ・ビデオ機器, 電源関連機器, 情報技術機器, 照明機器等の 安全性に関し, 様々な規定がこと細かに定められている. 詳細についてはhttp://www.jisc.go.jp/あるいは 該当する出版物を参照すること.

安全性が問題となるのは危険が存在するからであるが, 危険のことをハザードと呼ぶ(JISによる正式な定義[22]は「潜在的な危険の源」である).

安全性を確保するための手法を運用主体にしたがって分類すると,

となる.

設計段階で安全性を確保する(安全設計)には, 以下の手順で検討を進める.

  1. 本質的安全設計, 構造安全: 以下のような考え方で設計する.
    1. ハザードがないように設計する.
    2. ハザードから起こりうる危害が小さくなるよう設計する.
  2. 安全防護, 安全装置:
    1. 隔離の原則: ハザードから障壁等によって人間を隔離する.
    2. 停止の原則: 障壁等を開くときには装置を停止する.
  3. 使用上の情報の提供: 警報, 警告表示, 危険を回避するための マニュアル等を準備する.

上記も含め, 安全性工学では, 以下の事項について検討する必要がある.

リスクアセスメント, リスクマネジメントに関連した用語は JIS Q0073で定義されている. 上記の説明に先立って, 今後の説明に必要な部分をJIS Q0073から引用しておく[22].

(1.1) リスク: 目的に対する不確かさの影響.

(2.1) リスクマネジメント: (1.1)について, 組織を指揮統制するための調整された活動.

(3.3.1.3) リスク基準: リスク(1.1)の重大性を評価するための目安とする条件.

(3.4.1) リスクアセスメント: リスク特定(3.5.1), リスク分析(3.6.1)及びリスク評価(3.7.1)のプロセス全体.

(3.5.1) リスク特定: リスク(1.1)を発見, 認識及び記述するプロセス.

(3.5.1.1) リスク記述: 通常は, リスク源, 事象(3.5.1.3),原因及び結果(3.6.1.3)の四つの要素を含む, 整理されたリスクの説明文.

(3.5.1.3) 事象: ある一連の周辺状況の出現又は変化.

(3.5.1.4) ハザード: 潜在的な危険の源.

(3.6.1) リスク分析: リスク(1.1)の特質を理解し, リスクレベル(3.6.1.8)を決定するプロセス.

(3.6.1.3) 起こりやすさ: 何かが起こる可能性.

(3.6.1.3) 結果: 目的の影響を与える事象の結末.

(3.6.1.8) リスクレベル: 結果(3.6.1.3)とその起こりやすさ(3.6.1.1)の組合わせとして表現される, リスク(1.1)又は組み合わさったリスクの大きさ.

(3.7.1) リスク評価: リスク(1.1)及び/又はその大きさが, 需要可能か又は許容可能かを決定するために, リスク分析(3.6.1)の結果をリスク基準(3.3.1.3)と比較するプロセス.

リスクアセスメント

リスクアセスメントは, 上述のように, リスク特定, リスク分析及びリスク評価のプロセス全体のことである. なお, JIS Z8115では, 若干異なる定義がなされている[26].

リスク特定および分析には上述のFMEAが使える他, ハザード操作性解析(Hazard and Operability Study, HAZOP)という手法も用いられる. HAZOPはFMEAと類似した方法であり, 似たような様式のワークシートを用いるが, FMEAにおいて部品に着目し, ワークシートに失敗モードを記入したのに対し, HAZOPではプロセスのパラメータに着目し, ワークシートにその標準状態からの偏差(逸脱)を記入する.

リスクの評価には, 上述のFTAが利用できる他, イベントツリー解析(Event Tree Analysis, ETA)と いう手法も用いられる. ETAでは, 事故の防護に関し, イベントツリー(Event Tree, ET)という図を作成して解析する. これは, 異常事態等の事象を出発点として, 防護策が成功した場合は上, 失敗した場合は下に分岐するツリーを作成し, 各々の成功率および失敗率から 最終的に事故が発生する確率を見積る手法である. 図[*]に簡単なET図を示す. 各々の分岐における成功および失敗の確率がわかていれば, 図[*]右の各事象の発生確率を評価することができる.

図: 簡単なET図
\includegraphics{ETA.eps}

評価が終わったら, 許容可能なリスクが達成されたかを判定する. 許容可能なリスクが達成されれば終了, 達成されなければリスクの低減をおこなった上で最初から作業をやり直す.

リスクマネジメント

リスクマネジメントは危機管理, リスク管理などとも呼ばれる. これは, リスクに関して意思決定し, それを実行に移してゆく活動である. リスクマネジメントは, 大別すると, の2種類に分類される. 前者は, あらかじめ目標を定めた上で, Plan(計画)-Do(実行)-Check(確認)-修正(Act)のサイクル(PDCAサイクル) にしたがって計画的に実行される. 後者は損害を最小限に抑え, 通常状態に速やかに復帰するための活動であって, の3段階から成る.

リスクコミュニケーション

リスクコミュニケーションは, リスク情報を伝達するプロセスである. 適切にリスクコミュニケーションをおこなうためには, 非専門家がリスクに対してどのような印象を持ち, どのように反応するか(リスクを認知)を 知ることが重要である.

リスク認知には, 次のようなバイアスが発生することが知られている.

また, 同一の確率を持つ事象でも, 文章の表現によって受け手の心証が顕著に異なることが あることが知られている(フレーミング効果). 人工的な例であるが, 次のような状況が発生したと仮定する.

為替相場の激変による急激な景気の悪化のため, 何も対策を取らないと 10000人の失業者が発生する. 4通りの対策が考えられ, それぞれ次のような効果がある.

対策A: 2000人の雇用が見込まれる.

対策B: 1/5の確率で10000人の雇用が見込まれるが, 4/5の確率で全員失業する.

対策C: 8000人が失業する.

対策D: 1/5の確率で失業者が発生しないが, 4/5の確率で10000人の失業者が発生する.

どの対策が好ましいだろうか.
A, Bは, 文章の書き出しが肯定文になっていて, ポジティブフレームと呼ばれる. C, Dは, 文章の書き出しが否定文になっていて, ネガティブフレームと呼ばれる.

定量的には, どの対策も, 雇用者の期待値が2000人で同等である. にもかかわらず, ポジティブフレームではAの形の表現が好まれ, ネガティブフレームではDの形の表現が好まれる, というデータがある[13].

リスクコミュニケーションを成功させるための技法として, 次のようなものが知られている(感化技法).

感化は道義的あるいは倫理的に好ましくない使われ方をすることもあることを注意しておく.

ヒューマンファクター

ヒューマンファクターは, 文献[13]では, 「システムの安全における人間行動にかかわる行動の総称」であると定義されている. また, 文献[36]では, 「人間科学を体系的に適用することで, システム・エンジニアリングの枠内で統合して, 人間とその活動の関係を最適なものにすること」であると述べられている.

ヒューマンファクターにかかわる要素を図式的に表現したものに, SHELモデルと呼ばれるものがある. これは, ヒューマンファクターにかかわる要素を, L(Liveware, 本人)が S(Software, ソフトウェア), H(Hardware, ハードウェア), E(Environment, 環境), L(Liveware, まわりの人々) で取り囲まれている図で表現したものである(図[*]).

図: SHELモデル
\includegraphics{shel.eps}
ここに, ソフトウェアとは, 必ずしもコンピュータのプログラムではなく, 作業手順およびその手順書, 指示の出し方, 教育などの総称である. これにマネジメント機能を付加したm-SHELモデル, コンピュータを付加したC-SHELモデルといったモデルが使われることもある[17,36].

ヒューマンファクターを考える上で最も重要なのが, 人間の誤った行動(ヒューマンエラー)である. JIS Z8115では, ヒューマンエラーは「意図しない結果を生じる人間の行為」 と定義されている[26]. また, 文献[51]では, 「一連の行為における, ある許容限界を超える行為, すなわち, システムによって規定された許容範囲を逸脱する行為」と定義されている.

ヒューマンエラーは人間の望ましくない特性によって惹起されるが, この特性は, 次のような「人間の特性8箇条」に端的に集約されている[17].

  1. 人間は気まぐれである.
  2. 人間は怠け者である.
  3. 人間は不注意である.
  4. 人間は根気がない.
  5. 人間は単調を嫌う.
  6. 人間はのろまである.
  7. 人間は論理的思考力が弱い.
  8. 人間は何をするかわからない.

ヒューマンエラーを「誰に(あるいはどこに)原因を求めるべきか」という観点から分類したものに, 4Mあるいは5Mというものがある[36]. これは, 上述のSHELモデルと類似した考え方で, ヒューマンエラーの原因を求めるべき要素を次のような5種類の英文字Mで始まる英単語に集約したものである.

  1. man: 作業者本人を含む人間的要素.
  2. machine: 道具, 機械, 設備など.
  3. media: 環境的な要素.
  4. management: 管理的な要素.
  5. mission: 作業の目的, 目標に関する要素.
最初の4個をまとめて4M, 最後のものも含めて5Mと呼ぶ.

ヒューマンエラーを人間の行動とその結果を観察した結果に基づいて分類すると, 次のようになる[36,51].

また, 原因に着目してヒューマンエラーを次のように分類することがある[36].

上記と守備範囲および切り分け方が異なるが, 次のような分類もある[51].

ヒューマンエラーの解析手法は, 人間の心理が検討の対象となること以外は, FMEA, FTAと類似している. 代表的な方法に Technique for Human Error Rate Prediction (THERP)や Variation Tree Analysis (VTA)などが ある. 詳細については文献[13,44]などを参照せよ.

検査・試験および法規

信頼性・安全性を確保するためには検査・試験も重要なのであるが, エンジニアリングデザインの範疇から逸脱するのでここでは述べない. 文献[39,42,44,53]などを参照せよ.

法的な観点から言うと, たとえば電気用品安全法などといった安全に関連する多数の法規が存在しており, 技術者にとって重要である. これらについては, 必要に応じて電子政府総合窓口 http://law.e-gov.go.jp/ や関連書籍などを参照せよ.

知的財産法

技術者が知っておかなければならない法律のひとつに, 知的財産法について, 文献[9,29,30,31,32]にしたがって述べる.

知的財産法とは以下の法規の総称であって, そのような名前の法律があるわけではない. 知的財産法に何を含めるかには議論の余地があるが, 文献[9]では以下のものを挙げている.

以下でこれらについて必要に応じて条文を引用しながら説明するが, 以下の記述は2010年11月1日時点のものであって, 法規の改正によって妥当でなくなる可能性があることを注意しておく. 条文を一定長以上にわたって引用するときには, 引用の始めと終わりを $ \triangleright$ $ \triangleleft$であらわす. 知的財産法は頻繁に改正されるので, 必要が生じたときには, 電子政府総合窓口 http://law.e-gov.go.jp/ 等で最新の情報を確認すること.

特許法

特許法とは, 「発明の保護及び利用を図ることにより, 発明を奨励し, もつて産業の発達に寄与することを目的とする」 法律であり(第1条), その対象となる発明とは, 第2条において, 「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と規定されている.

特許が成立するためには, 以下の条件をすべて満たさなければならない[29].

ただし, 第29条によって, 以下のようなものは除外されている.

一 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明

二 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明

三 特許出願前に日本国内又は外国において, 頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明 特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは, 特許を受けることができない(第29条).

出願後, 特許庁の審査の結果特許査定がなされ, 所定の特許料が納付された後, 特許権設定の登録がなされることで権利が発生する[32]. 日本では, 先に出願した者に特許を与える先願主義が採用されている. 出願の方法については本資料では述べない. 文献[32]等を参照せよ.

審査は遅延する傾向があり, これに対処するため, 以下のような制度が採用されている.

出願から20年間権利が保護される.

特許を受ける権利を有する者が発明を学術団体の研究集会等で公開した場合に第29条によって新規性を喪失するか否かが問題となるのだが, これについては, 第30条に, 以下のような猶予に関する規定が設けられている.

$ \triangleright$
特許を受ける権利を有する者が試験を行い, 刊行物に発表し, 電気通信回線を通じて発表し, 又は特許庁長官が指定する学術団体が開催する研究集会において文書をもつて発表することにより, 第二十九条第一項各号の一に該当するに至つた発明は, その該当するに至つた日から六月以内にその者がした特許出願に係る発明についての同条第一項及び第二項の規定の適用については, 同条第一項各号の一に該当するに至らなかつたものとみなす.
2
特許を受ける権利を有する者の意に反して第二十九条第一項各号の一に該当するに至つた発明も, その該当するに至つた日から六月以内にその者がした特許出願に係る発明についての同条第一項及び第二項の規定の適用については, 前項と同様とする.
3
特許を受ける権利を有する者が政府若しくは地方公共団体(以下「政府等」という. )が開設する博覧会若しくは 政府等以外の者が開設する博覧会であつて特許庁長官が指定するものに, パリ条約の同盟国若しくは世界貿易機関の加盟国の領域内でその政府等若しくはその許可を受けた者が開設する国際的な博覧会に, 又はパリ条約の同盟国若しくは世界貿易機関の加盟国のいずれにも該当しない 国の領域内でその政府等若しくはその許可を受けた者が開設する国際的な博覧会であつて特許庁長官が指定するものに出品することにより, 第二十九条第一項各号の一に該当するに至つた発明も, その該当するに至つた日から六月以内にその者がした特許出願に係る発明についての同条第一項及び第二項の規定の適用については, 第一項と同様とする.
4
第一項又は前項の規定の適用を受けようとする者は, その旨を記載した書面を特許出願と同時に特許庁長官に提出し, かつ, 第二十九条第一項各号の一に該当するに至つた発明が第一項又は前項の規定の適用を受けることができる発明であることを 証明する書面を特許出願の日から三十日以内に特許庁長官に提出しなければならない. $ \triangleleft$

特許には及ばない範囲があり, その範囲は第69条で規定されている.

$ \triangleright$
特許権の効力は、試験又は研究のためにする特許発明の実施には, 及ばない.
2
特許権の効力は、次に掲げる物には, 及ばない.

一 単に日本国内を通過するに過ぎない船舶若しくは航空機又はこれらに使用する機械, 器具, 装置その他の物

二 特許出願の時から日本国内にある物

3
二以上の医薬(人の病気の診断, 治療,処置又は予防のため使用する物をいう. 以下この項において同じ. ) を混合することにより製造されるべき医薬の発明又は二以上の医薬を混合して医薬を製造する方法の発明に係る特許権の効力は, 医師又は歯科医師の処方せんにより調剤する行為及び医師又は歯科医師の処方せんにより調剤する医薬には, 及ばない. $ \triangleleft$
卒業研究に関係するのはおもに1項である. すなわち, 研究目的であれば, 特許権が及ぶことはない (もちろん商品化する場合には特許が問題となる).

特許権は譲渡することができる.

国際特許出願により, 複数国において同時に出願することができる. 国際特許出願がなされた場合, 実体審査は各国でなされる.

実用新案法

実用新案法とは, 「物品の形状, 構造又は組合せに係る考案の保護及び利用を図ることにより, その考案を奨励し, もつて産業の発達に寄与することを目的とする」 法律であり(第1条), その対象となる「考案」は第2条において「自然法則を利用した技術的思想の創作」であると定められている. 条文にあるように, 保護対象は である.

産業として実施できる必要があること, 先願主義を取ること, 公序良俗に反する考案が対象とならないことは特許と同じである.

一 実用新案登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた考案

二 実用新案登録出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた考案

三 実用新案登録出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された考案又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた考案 が除外されていること(第3条)も特許と同様である. また, 第3条2項において, 「実用新案登録出願前にその考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる考案に基いてきわめて 容易に考案をすることができたときは, その考案については, 同項の規定にかかわらず, 実用新案登録を受けることができない」と定められている.

出願者は出願時に出願手数料と登録料を支払う[32]. 実用新案では無審査制度が採用されており, 方法審査および基礎的要件の審査はおこなうが, 新規性, 進歩性に関する審査はおこなわない. 上記審査で問題がなければ実用新案権を取得できる. 出願の方法については文献[32]等を参照せよ.

実用新案は実体審査を経由せずに登録されているので, 権利者の権利行使にも制限がある. 具体的には, 第29条の2に, 「実用新案権者又は専用実施権者は, その登録実用新案に係る実用新案技術評価書を提示して警告をした後でなければ, 自己の実用新案権又は専用実施権の侵害者等に対し, その権利を行使することができない」 と規定されている.

出願から10年間権利が保護される .

国際出願が可能である(第48条の3).

半導体集積回路の回路配置に関する法律

半導体集積回路の回路配置に関する法律とは, 「半導体集積回路の回路配置の適正な利用の確保を図るための制度を創設することにより, 半導体集積回路の開発を促進し, もつて国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする」法律であり(第1条), その対象は第1条において次のように規定されている.
$ \triangleright$
この法律において「半導体集積回路」とは, 半導体材料若しくは絶縁材料の表面又は半導体材料の内部に, トランジスターその他の回路素子を生成させ, かつ, 不可分の状態にした製品であつて, 電子回路の機能を有するように設計したものをいう.
2
この法律において「回路配置」とは, 半導体集積回路における回路素子及びこれらを接続する導線の配置をいう.
3
この法律において回路配置について「利用」とは, 次に掲げる行為をいう.

その回路配置を用いて半導体集積回路を製造する行為

その回路配置を用いて製造した半導体集積回路(当該半導体集積回路を組み込んだ物品を含む. )を譲渡し, 貸し渡し, 譲渡若しくは貸渡しのために展示し, 又は輸入する行為 $ \triangleleft$

設定登録の申請の却下の規定が以下のように定められている(第8条).

$ \triangleright$
経済産業大臣は, 設定登録の申請が次の各号のいずれかに該当することが第三条第二項の申請書及びこれに添付した図面その他の資料から明らかであるときは, 設定登録の申請を却下しなければならない.

一 申請者が創作者等でないこと.

二 創作者等が二人以上ある場合において, これらの者が共同して設定登録の申請をしていないこと.

三 申請に係る回路配置が第六条の規定により設定登録を受けることができないものであること.

四 申請書が方式に適合しないことその他の政令で定める事由があること.

2
経済産業大臣は, 前項の規定により申請を却下したときは, 遅滞なく, その理由を示して, その旨を申請者に通知しなければならない. $ \triangleleft$
設定登録が申請され, 上記に該当しない場合には, 設定登録がなされる(第7条).

設定登録により回路配置利用権が発生し, その存続期間は10年である(第10条).

種苗法

種苗法とは, 「新品種の保護のための品種登録に関する制度, 指定種苗の表示に関する規制等について定めることにより, 品種の育成の振興と種苗の流通の適正化を図り, もって農林水産業の発展に寄与することを目的とする」法律である(第1条). 品種とは重要な形質に係る特性の全部又は一部によって他の植物体の集合と区別することができ, かつ, その特性の全部を保持しつつ繁殖させることができる一の植物体の集合をいい(第2条の2), 種苗とは植物体の全部又は一部で繁殖の用に供されるものをいう(第2条の3).

品種出願登録の後, 審査を経て, 品種登録がなされる.

育成者権は品種登録により発生する. 育成者権の存続期間は品種登録の日から25年であるが, 「出願品種の種苗に係る登録商標又は当該種苗と類似の商品に係る登録商標と同一又は類似のものであるとき」(第4条第2項) には30年である(第19条). 育成者権は存続期間満了まで毎年登録料を納付しなければならない(第45条).

種苗法とエンジニアリングデザインとの関係は深くないので, ここではこれ以上の説明は避ける. 詳細については品種登録ホームページ http://www.hinsyu.maff.go.jp/などを参照せよ.

意匠法

意匠法とは, 「意匠の保護及び利用を図ることにより, 意匠の創作を奨励し, もつて産業の発達に寄与することを目的とする」法律であり(第1条), その対象となる「意匠」は第2条において 「物品(物品の部分を含む. 第八条を除き, 以下同じ. )の形状, 模様若しくは色彩又はこれらの結合であつて, 視覚を通じて美感を起こさせるものをいう.」と定められている.

意匠登録できるための条件は,

である[30].

出願後, 方式審査と実体審査を経由し, 登録査定がなされた場合に, 所定の登録料が納付され, 意匠権設定の登録がなされることで権利が発生する[30].

意匠の保護期間は登録から20年である(第21条).

商標法

商標法とは, 「商標を保護することにより, 商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り, もつて産業の発達に寄与し, あわせて需要者の利益を保護することを目的とする」法律であり, その対象となる「商標」は第2条において次のように定められている.

$ \triangleright$ この法律で「商標」とは, 文字, 図形, 記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合(以下「標章」という. )であつて, 次に掲げるものをいう.

一 業として商品を生産し, 証明し, 又は譲渡する者がその商品について使用をするもの

二 業として役務を提供し, 又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く. ) $ \triangleleft$ 商標に関しては, 国旗を登録できない等, 第3$ \sim$4条に様々な「商標登録できないものの条件」が挙げられている.

出願すると出願公開制度(第12条の2)により公開される. 出願したものはすべて審査され, 拒絶の理由がないものは登録査定され, 登録料の納付により登録される[31]. 出願手続については[31]等を参照せよ.

商標の保護期間は登録から10年で, 更新が可能である(第19条).

国際登録が可能である(第68条).

商標と類似した言葉に「商号」があるが, こちらは 会社法において, 「会社は, その名称を商号とする」(第6条)と規定されている. 商号は会社法によって保護される.

商標に関しては, 近年, 中華人民共和国において日本の地名が大量に商標申請されていることが判明し, 重大な問題になっている(たとえばダイヤモンド社の記事http://diamond.jp/articles/-/6042(2010年10月2日現在)を参照).

不正競争防止法

不正競争防止法とは, 「事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため, 不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ, もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする」法律である. 不正競争防止法は包括的な法律であり, その対象となる不正競争の定義は多岐にわたる. 繁雑であるが, 第2条の1の定義を引用しておく. 長いので要約すると, が不正競争である.

権利者の保護の手段は差止(第3条)および損害賠償(第4条)である.

商法

商法の趣旨は第1条に記載されており, エンジニアリングデザインとの関係は薄いので詳しい説明は避ける.

会社法

会社法の趣旨は第1条に記載されており, 「会社の設立, 組織, 運営及び管理については, 他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、この法律の定めるところによる」となっている. エンジニアリングデザインとの関係は薄いので詳しい説明は避ける.

著作権法

著作権法とは, 「著作物並びに実演, レコード, 放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め, これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ, 著作者等の権利の保護を図り, もつて文化の発展に寄与することを目的とする」 法律である(第1条). ここに, 著作物とは, 思想又は感情を創作的に表現したものであつて, 文芸, 学術, 美術又は音楽の範囲に属するものをいう(第2条). すべての著作物等が保護の対象となるわけではなく, たとえば第6条には

$ \triangleright$ 著作物は、次の各号のいずれかに該当するものに限り, この法律による保護を受ける.

一 日本国民(わが国の法令に基づいて設立された法人及び国内に主たる事務所を有する法人を含む。以下同じ. )の著作物

二 最初に国内において発行された著作物(最初に国外において発行されたが、その発行の日から三十日以内に国内において発行されたものを含む. )

三 前二号に掲げるもののほか, 条約によりわが国が保護の義務を負う著作物 $ \triangleleft$ と規定されているし, 第13条では

$ \triangleright$次の各号のいずれかに該当する著作物は, この章の規定による権利の目的となることができない.

一 憲法その他の法令

二 国若しくは地方公共団体の機関, 独立行政法人 (独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人をいう. 以下同じ. ) 又は地方独立行政法人(地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号) 第二条第一項に規定する地方独立行政法人をいう. 以下同じ. )が発する告示, 訓令, 通達その他これらに類するもの

三 裁判所の判決, 決定, 命令及び審判並びに行政庁の裁決及び決定で裁判に準ずる手続により行われるもの

四 前三号に掲げるものの翻訳物及び編集物で, 国若しくは 地方公共団体の機関, 独立行政法人又は地方独立行政法人が作成するもの $ \triangleleft$ のような例外が設けられている. なお, 著作物については第10条に例示があり,

$ \triangleright$
この法律にいう著作物を例示すると, おおむね次のとおりである.

一 小説, 脚本, 論文, 講演その他の言語の著作物

二 音楽の著作物

三 舞踊又は無言劇の著作物

四 絵画, 版画, 彫刻その他の美術の著作物

五 建築の著作物

六 地図又は学術的な性質を有する図面, 図表, 模型その他の図形の著作物

七 映画の著作物

八 写真の著作物

九 プログラムの著作物

2
事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は, 前項第一号に掲げる著作物に該当しない.
3
第一項第九号に掲げる著作物に対するこの法律による保護は, その著作物を作成するために用いるプログラム言語, 規約及び解法に及ばない. この場合において, これらの用語の意義は, 次の各号に定めるところによる.

プログラム言語 プログラムを表現する手段としての文字その他の記号及びその体系をいう.

規約 特定のプログラムにおける前号のプログラム言語の用法についての特別の約束をいう.

解法 プログラムにおける電子計算機に対する指令の組合せの方法をいう. $ \triangleleft$

となっている. プログラムに関する記述には注意を要する.

権利は創作と同時に発生する.

著作者の権利は, 著作権と著作者人格権(公表権, 氏名表示権, 同一性保持権; 第18$ \sim$20条) から成る. 著作権は譲渡することができるが(第61条), 著作者人格権は譲渡することができない(第59条).

著作権の存続期間は, 著作物の創作の時に始まり, 著作者の死後50年存続する(第51条). 法人その他の団体の著作権は公表後50年存続し(第53条), 映画の著作物の公表後70年存続する(第54条),

著作権の行使にはいくつかの制限事項があり, 第五款において,

などの場合について様々な規定がなされている (上記条件では無条件に複製してよいというわけではないので注意).

著作権法に関連した条約に, ベルヌ条約と万国著作権条約がある.

法律に関する言葉使いは独特で, いきなり条文あるいは専門書を読んでもよくわからないことが多い. 文献[54]は, 手軽な入門書である(これ自体は知的財産法の入門書ではないので注意).

技術者の倫理

倫理とは何かについて辞書を引いてみると, 次のようになっている. 文献[55]ではより明瞭な定義が試みられており, とされている. 法律が権力によって遵守することを強制される他律的な規範であるのに対し, 倫理は自律的な傾向を持つ規範である.

倫理はすべての人が遵守することを期待される規範なのだが, その中でことさらに「技術者の倫理」と強調する理由は以下のようなものであると考えられる.

多くの工学系団体・学会が倫理規定を定めている. 以下にいくつかのURLを挙げる.

技術者の倫理は別途必修科目として提供されているので, 詳しい説明はそちらに譲る.

参考文献

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http://www.jabee.org/public_doc/download/?docid=85 (2013年10月12日閲覧)

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杉本, 高城, 大学講義 技術者の倫理入門, 第4版, 丸善, 2008.

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椿, 河村, 設計科学におけるタクチメソッド, 日科技連, 2008.

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62
山際, リサイクルを助ける製品設計入門, 講談社, 1999.

製造物責任法

(平成六年七月一日法律第八十五号)

(目的)
第一条
この法律は, 製造物の欠陥により人の生命, 身体 又は財産に係る被害が生じた場合における製造業者等の損害賠償の責任につ いて定めることにより, 被害者の保護を図り, もって国民生活の安定向上と 国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする.

(定義)
第二条
この法律において「製造物」とは, 製造又は加工 された動産をいう.

  1. この法律において「欠陥」とは, 当該製造物の特性, その通常予見さ れる使用形態, その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製 造物に係る事情を考慮して, 当該製造物が通常有すべき安全性を欠いているこ とをいう.
  2. この法律において「製造業者等」とは, 次のいずれかに該当する者を いう.

    一 当該製造物を業として製造, 加工又は輸入した者(以下単に「製 造業者」という. )

    二 自ら当該製造物の製造業者として当該製造物にその氏名, 商号, 商標その他の表示(以下「氏名等の表示」という. )をした者又は当該製造物に その製造業者と誤認させるような氏名等の表示をした者

    三 前号に掲げる者のほか, 当該製造物の製造, 加工, 輸入又は販売 に係る形態その他の事情からみて, 当該製造物にその実質的な製造業者と認め ることができる氏名等の表示をした者

(製造物責任)
第三条
製造業者等は, その製造, 加工, 輸入又は前条第三項第二号若しくは第三号 の氏名等の表示をした製造物であって, その引き渡したものの欠陥により他 人の生命, 身体又は財産を侵害したときは, これによって生じた損害を賠償 する責めに任ずる. ただし, その損害が当該製造物についてのみ生じたとき は, この限りでない.

(免責事由)
第四条
前条の場合において, 製造業者等は, 次の各号に掲げる事項を証明したとき は, 同条に規定する賠償の責めに任じない.

一 当該製造物をその製造業者等が引き渡した時における科学又は技術 に関する知見によっては, 当該製造物にその欠陥があることを認識することが できなかったこと.

二 当該製造物が他の製造物の部品又は原材料として使用された場合に おいて, その欠陥が専ら当該他の製造物の製造業者が行った設計に関する指示 に従ったことにより生じ, かつ, その欠陥が生じたことにつき過失がないこと.

(期間の制限)
第五条
第三条に規定する損害賠償の請求権は, 被害者又はその法定代理人が損害及 び賠償義務者を知った時から三年間行わないときは, 時効によって消滅する. その製造業者等が当該製造物を引き渡した時から十年を経過したときも, 同 様とする.

  1. 前項後段の期間は, 身体に蓄積した場合に人の健康を害することとな る物質による損害又は一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる損害につい ては, その損害が生じた時から起算する.

(民法の適用)
第六条
製造物の欠陥による製造業者等の損害賠償の責任については, この法律の規 定によるほか, 民法(明治二十九年法律第八十九号)の規定による.

附則 抄

(施行期日等)

  1. この法律は, 公布の日から起算して一年を経過した日から施行し, その 法律の施行後にその製造業者等が引き渡した製造物について適用する.